義父の通院の付き添い。義母からの電話。ケアマネジャーとの打ち合わせ。
気づけば全部、自分がやっている。**夫は「ありがとう」とは言うけれど、動かない。**親戚は「おたくは嫁さんがいるから安心ね」と言う。
——なぜ、自分なのか。
結論からいうと、法律上、配偶者の親の介護は原則として義務ではありません。そして統計を見ると、主な介護者のうち「子の配偶者」はわずか4.2%。この記事では、法律と統計の両方から、引き受ける・引き受けないを決めるための材料を整理します。
法律は、誰に義務を課していますか?
民法第877条第1項は、こう定めています。
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
**配偶者の親は、自分の直系血族でも兄弟姉妹でもありません。**したがって、この条文の対象外です。夫にとっては実の親ですが、あなたにとってはそうではない——それが法律の建て付けです。
ただし、同条第2項に例外があります。
家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
義父母は一親等の姻族なので、理論上はこの対象になり得ます。⚠️ ただし家庭裁判所の審判が必要で、当然に発生するものではありません。さらに第880条により、審判のあとで事情が変わったときは、その取消しや変更を求めることもできます。
つまり——「嫁なんだから当たり前」という言い方に、法的な裏づけはありません。引き受けるとしたら、それは義務ではなくあなたの選択です。
💡 そして同じ条文は、夫には義務があると言っています。ここは押さえておいてください。
実際のところ、誰が介護していますか?
厚生労働省の2025(令和7)年 国民生活基礎調査を見ると、思っているより「嫁の介護」は少数派です。
要介護者等からみた主な介護者の続柄は、次のとおりです。
| 続柄・区分 | 割合 |
|---|---|
| 配偶者 | 22.5% |
| 子 | 18.2% |
| 子の配偶者 | 4.2% |
| 父母 | 0.1% |
| その他の親族 | 1.1% |
| 別居の家族等 | 13.4% |
| 事業者 | 16.0% |
| その他 | 0.7% |
(同居の主な介護者が46.1%、ほかは別居・事業者等)
さらに、介護時間が**「ほとんど終日」の同居介護者に限ると、内訳は配偶者64.6%・子28.9%・子の配偶者4.9%**。この子の配偶者の数字は、2022年の8.2%からほぼ半減しています。
**重い介護を嫁が担う形は、統計上はっきり減っています。**そして代わりに増えているのが、事業者(16.0%)——つまり介護サービスです。
「うちだけが薄情なのでは」と感じる必要はありません。むしろ、あなたが抱えている状態のほうが、いまの平均から外れています。
引き受ける前に、決めておくこと
やらないと決めるのも、やると決めるのも、どちらも選択です。ただし曖昧なまま流れで始まると、あとから降りられなくなります。
引き受けると決めるなら、最低でもこの4つを先に決めてください。
- 範囲 — 何をやって、何をやらないか(通院の付き添いはする、夜間の呼び出しは受けない、など)
- 期限の見直し — 「半年やってみて、もう一度話し合う」と区切る
- お金 — 立て替えはしない。義父母の口座から出す。出せない分は夫が出す
- 記録 — やったこと・かかった費用・日付を残す(下の「お金」の項で効いてきます)
⚠️ **いちばん危ないのは「とりあえず私がやります」**です。一度引き受けた範囲は、縮めるほうが始めるより何倍も大変になります。
夫(実子)との分担は、どう決めますか?
「やる・やらない」で話すと感情論になります。作業の一覧にして割り振るほうが現実的です。
| 作業 | 担当 |
|---|---|
| ケアマネジャーとの窓口・連絡 | 夫(扶養義務があるのは実子) |
| お金の管理・支払い | 夫 |
| きょうだいへの連絡・調整 | 夫 |
| 施設や制度の情報収集 | 分担 |
| 通院の付き添い | 分担(平日は難しい、なども含めて決める) |
| 日々の身体介助 | まず介護サービスで埋める |
**窓口と決定は、できるだけ夫に持たせてください。**ここが嫁側にあると、親戚からの要望も苦情も全部こちらに来ます。
きょうだいがいる場合の分け方はきょうだいで介護をどう分担するか、揉めたときの考え方はきょうだいの使い込みもあわせてどうぞ。
お金はどうなりますか?
引き受けた場合、2019年7月から特別寄与料という制度があります。相続人以外の親族が、無償で療養看護などをして被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をしたときは、相続人に対して金銭の支払いを請求できるようになりました。
⚠️ 請求には期限があります(相続の開始と相続人を知った時から6か月、相続開始から1年)。そして記録がないと、ほぼ認められません。詳しくは介護と相続(寄与分と特別寄与料)にまとめています。
断る場合でも、相続で不利になるわけではありません。そもそも子の配偶者は原則として相続人ではないので、失うものもありません。
角を立てずに断るには
正面から「やりません」と言う必要はありません。主語を「できない」にして、代わりの手を出すのがコツです。
| 通りにくい | 通りやすい |
|---|---|
| 「私がやる義務はありません」 | 「平日は仕事があるので、ヘルパーさんにお願いしましょう」 |
| 「夫がやるべきでしょ」 | 「お義父さんのことは、◯◯さん(夫)が窓口ね。私は補助で」 |
| 「無理です」 | 「週2回までならできます。それ以上はサービスを入れたい」 |
| (黙って我慢する) | 「このままだと私が倒れるので、先に体制を作りたい」 |
そして**親戚への説明は、夫にさせてください。**嫁が説明すると「言い訳」に聞こえ、夫が説明すると「うちの方針」になります。同じ内容でも、誰が言うかで結果が変わります。
相談先は担当のケアマネジャー、まだいなければ地域包括支援センターです。**「嫁の立場で、どこまで担うべきか迷っている」とそのまま言って構いません。**使えるサービスの全体像は介護保険サービスの種類へ。
在宅の限界を感じたら
統計が示しているのは、「嫁が担う」から「サービスが担う」へ置き換わってきたという流れです。事業者が主な介護者である割合は16.0%——子の配偶者の4倍近くあります。
あなたが我慢して支えることで在宅が成り立っているなら、それは成り立っているのではなく、あなたが赤字を埋めているだけかもしれません。
判断の目安は在宅介護のコツと限界の見極め方、罪悪感については施設に入れるのは親不孝?と感じたら、消耗しきる前に介護疲れ・介護うつも読んでみてください。費用の目安は介護費用の相場、施設探しはエリア別の施設一覧から始められます。
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出典・参考
- 民法(明治29年法律第89号)第877条(第1項=直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある/第2項=家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる)、第878条(扶養の順位)、第879条(扶養の程度又は方法は、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して家庭裁判所が定める)、第880条(協議又は審判の後に事情の変更が生じたときは、家庭裁判所は変更・取消しができる):https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(要介護者等と主な介護者の同別居=同居46.1%/要介護者等からみた主な介護者の続柄=配偶者22.5%・子18.2%・子の配偶者4.2%・父母0.1%・その他の親族1.1%・別居の家族等13.4%・事業者16.0%・その他0.7%〔図24〕/介護時間が「ほとんど終日」である同居の主な介護者の続柄=**配偶者64.6%・子28.9%・子の配偶者4.9%**で、2022年は順に61.4%・26.6%・8.2%〔図28〕):https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/05.pdf
- 厚生労働省「国民生活基礎調査」(調査の概要と各年の結果):https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21kekka.html
まとめ
義理の親の介護に、法律上の義務は原則としてありません。民法877条1項が扶養義務を課しているのは直系血族と兄弟姉妹で、配偶者の親は含まれません(例外は家庭裁判所が特別の事情で三親等内の親族に負わせる場合だけ)。統計でも、主な介護者のうち子の配偶者は4.2%、終日介護に限っても2022年8.2%→2025年4.9%とほぼ半減しています。代わりに増えているのは事業者(16.0%)です。引き受けるなら範囲・見直しの期限・お金・記録の4つを先に決めてください。「とりあえず私が」が一番危ない。窓口と決定は実子である夫に持たせ、親戚への説明も夫にさせる——同じ内容でも、誰が言うかで結果が変わります。引き受けた場合は特別寄与料(期限あり・記録が前提)という道もあります。あなたが我慢して在宅が成り立っているなら、それは成り立っているのではなく、あなたが赤字を埋めているだけかもしれません。施設探しや介護の悩みは、AIアドバイザーにも気軽にご相談ください(無料・登録不要)。