久しぶりに実家に帰ったら、においが変わっていた。玄関を開けた瞬間に分かった。

でも本人は、まったく気にしていない。指摘すれば怒る。掃除をしようとすれば止められる。

結論からいうと、**これは「だらしなくなった」のではありません。**次の2つが重なって起きています。

  1. 本人には、自分のにおいが分からない(嗅覚が落ちている)
  2. においを断つ行為が、できなくなっている(入浴・洗濯・歯みがき・掃除は、どれも体力と段取りが要ります)

どちらも、責めて直るものではありません。においは「しなくなったこと」ではなく、「できなくなったこと」の地図として読んでください。読み方が分かれば、手の入れどころも決まります。

なぜ本人は、自分のにおいに気づかないのですか

国立長寿医療研究センターの解説に、そのままの答えがあります。

においの低下は意外と気がつきにくく、ほかの人がにおっているのに自分がわからなくて、はじめてにおいの低下に気がつく場合や、いつから衰えてきたのか本人でもよく覚えていない場合があります。また視力や聴力の低下のように周りの人が気づくこともないため、においの低下がずいぶんたってから見つかることがあります。

**本人も気づかない。周りも気づかない。**メガネや補聴器のように目に見える対処が無いぶん、嗅覚の低下は誰にも見つけられないまま何年も進みます。

加齢による低下については、同センターはこう書いています。

年をとるにつれて、においも低下することが知られています。

つまり、においに無頓着になったのは性格が変わったからではなく、感覚が変わったからである可能性があります。

においの低下は、もの忘れのサインでもあります

ここは知っておいてください。同じ解説は、認知機能の低下についてこう述べています。

アルツハイマー病やパーキンソン病などではにおいも低下します。これらの疾患では認知機能の低下よりも、においの低下のほうが数年早く起こることが知られています。何かにおっていても何のにおいかがよくわからないことが特徴です。

そして、こう続きます。

においの低下がある場合は、もの忘れなどが起こらないか注意しておく必要があります。

においの低下が先に来て、もの忘れが数年遅れて来る。「においを気にしなくなった」は、その順序の入口にいる可能性があります。気になるようなら認知症の初期症状もあわせて確認してください。

⚠️ 嗅覚の低下は、安全の問題でもあります

同センターは、においが分からないことの危険をこう書いています。

痛んだ食べ物も、においがわからず食べてしまうと食中毒の原因になります。火事の煙や有毒なガスのにおいがわからなければ、逃げ遅れて命に関わります。

冷蔵庫の中身、ガス、こげたにおい。ひとり暮らしの親の場合、これは生活の質の話ではなく安全の話になります。高齢者の一人暮らしはいつまで可能かで、ほかのサインとあわせて見てください。

においの原因は、ひとつではありません

「においがする」とひとまとめにすると、手の打ちようがなくなります。発生源で4つに分けてください。それぞれ、頼む相手が違います。

発生源主な原因最初の一手
口歯周病、舌苔、入れ歯の清掃不足、唾液の減少歯科(通えなければ訪問歯科)
体・頭皮入浴・洗髪の回数が減っている入浴の介助を介護保険で外に出す
排泄まわり尿もれ、失禁、下着やパッドの交換不足ケアマネジャーに相談・福祉用具
家(衣類・寝具・台所・ゴミ)洗濯・掃除・ゴミ出しができていない訪問介護の生活援助、地域の支援

多くの家庭で起きているのは、この4つが同時に少しずつ進んでいるという状態です。だから「風呂に入れば解決する」とはならず、家族の側も何から手をつければいいのか分からなくなります。

**全部を一度に変えようとしないでください。**上から順に、いちばん手が届くものを1つだけ動かします。

口のにおいは、どこから来ていますか

厚生労働省 e-ヘルスネットの「口臭の原因・実態」は、原因の所在をはっきり書いています。

口臭の大部分(80%以上)は口腔内の気体由来

歯周病・舌苔が原因のほとんどを占め、この両者では舌苔からの産生量の方が多いといわれています

**胃が悪いから、ではありません。**ほとんどは口の中で起きています。そして舌苔(舌の表面の白い付着物)の比重が大きい、というのがポイントです。

対処についても、同サイトははっきりしています。

舌の清掃による舌苔の除去が最も有効な予防法です

一日の舌清掃の回数は、起床時の一回で結構です

1日1回、朝だけで十分と書かれています。何度もやらせる必要はありません。

家族が気づいたことは、受診のきっかけとして書かれています

この記事でいちばんお伝えしたいのが、次の一文です。

何の自覚もないのに家族から口臭を指摘されるようになったら、歯科医院を受診して歯周病の検査を受け、専門的な治療を受けることで改善します

**「家族が気づく」は、公的な資料のなかで受診の入口として扱われています。**あなたが気づいたことは、余計な口出しではありません。役割としては、責める人ではなく、歯科につなぐ人です。

もうひとつ、同サイトはこうも書いています。

歯周病はほとんど痛みもなく進行していきます

親が痛がっていないことは、問題がないことの証明になりません。「痛くないから大丈夫」で先送りされやすいのが歯周病です。

⚠️ 唾液が減る原因に、薬があります

口の中が乾くと、においは強くなります。そして高齢の親の場合、口の渇きが薬の影響で起きていることがあります。

厚生労働省の高齢者の医薬品適正使用の指針は、生活に変化が出たり新たな症状が出現したりする場合には、まず薬剤が原因ではないかと疑ってみる、としています。詳しくは親のふらつき・物忘れは、薬のせいかもしれませんにまとめました。

⚠️ **自己判断で薬をやめさせないでください。**気づいたことを、かかりつけ医か薬剤師に伝えるところまでが家族の役割です。

体のにおいは、家族が何とかしなくていい

体のにおいの正体は、多くの場合とても単純です。入浴と洗髪と着替えの回数が減っています。

そして減っている理由も、たいてい「面倒だから」ではありません。

  • 浴室が寒い、床が滑る、またぎが高い(=怖い)
  • 服の脱ぎ着に時間がかかり、疲れる
  • 入ったかどうかを覚えていない
  • 裸を見られたくない、手伝われたくない

拒否そのものへの向き合い方は親がお風呂に入りたがらないときに詳しく書きました。ここでお伝えしたいのは、家族が入れる以外の道が3本あるということです。

サービス何をしてくれるか向いている状況
訪問介護(ホームヘルプ)訪問介護員が自宅を訪問し、食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)を行う自宅の風呂は使えるが、見守りや介助が要る
訪問入浴介護看護職員と介護職員が訪問し、持参した浴槽で入浴の介護を行う自宅の浴室が使えない、寝たきりに近い
通所介護(デイサービス)設備と人手のある場所で入浴を済ませる外に出られる。家では拒むが外なら入る

いずれも厚生労働省の介護サービス情報公表システムに掲載されているサービスです。訪問入浴介護については、利用者の身体の清潔の保持、心身機能の維持回復を図り、と目的が明記されています。清潔を保つことは、介護保険が正面から目的として掲げていることです。

家族が入れようとするから断られている、という順序になっていることは珍しくありません。他人にはすんなり任せる、ということもあります。まずはケアマネジャーに相談してください。担当がいなければ地域包括支援センターが入口です。相性が合わないと感じているならケアマネジャーの選び方・変更もどうぞ。

やってはいけない対応はありますか

① 「くさい」と言う

いちばん効果がなく、いちばん傷つけます。本人に自覚が無いので、理由の分からない非難として残ります。においは忘れられても、責められた感情は残ります。

② 消臭剤や香水で覆う

原因が減らないうえ、においが混ざって強くなることがあります。消臭剤は「原因を減らしたあと」に使うものです。

③ 全部を一度に変えようとする

風呂も歯みがきも洗濯も掃除も、同じ週に始めようとすると、本人は「生活全部を否定された」と受け取ります。1つだけにしてください。

④ 本人の前で、服や布団を捨てる

たとえ汚れていても、目の前で捨てられるのは持ち物を勝手に処分されたという記憶になります。洗える物は洗う、替えは黙って足す、が基本です。

⑤ 「お風呂に入った?」と確認する

覚えていない場合、これは答えられない質問になります。答えられない質問からは、嘘か怒りしか返ってきません。

そのまま使える言い方

においを話題にせず、行動だけを動かします。

伝わりにくい言い方伝わりやすい言い方
においがするから、お風呂に入って今日は冷えるね。お湯ためたから、あたたまって
お風呂に入った?背中だけ流させて。すぐ済むから
歯みがきしてよ入れ歯、合ってないんじゃない? 歯医者で見てもらおう
その服、いつから着てるのこれ洗っておくね。こっち、出しておいたよ
掃除しなさい台所だけ、一緒に片づけよう
くさいよ(においには触れず、行動だけ提案する)

共通しているのは、理由を「におい」にしないことです。寒いから、疲れるから、入れ歯が合わないから——本人が受け入れやすい理由に置き換えます。

においが急に変わったときは、どうすればいいですか

⚠️ ここは慎重にお伝えします。**においの種類から病気を言い当てようとしないでください。**それは家族がやることではありません。

ただし、「急に変わった」「明らかに強くなった」という変化そのものは、伝える価値のある情報です。かかりつけ医、歯科医師、訪問看護師、ケアマネジャーに、そのまま伝えてください。

伝えるときは、判断ではなく事実を渡します。

  • いつごろから変わったか
  • どこのにおいか(口/体/尿/家)
  • 同時期に他に変わったことはあるか(食欲、体重、飲んでいる薬、もの忘れ)

受診そのものを拒む場合は親が病院に行きたがらないときに、断られない持って行き方をまとめています。

家のにおいは「できなくなったこと」の地図です

体のにおいより先に、家のにおいが変わることがあります。原因はだいたいこの4か所です。

  • 台所・冷蔵庫——期限切れの食品が捨てられていない(=ゴミ出しと買い物の判断が落ちている)
  • 洗濯物・寝具——洗えていない、干せていない(=重い物を運べない)
  • トイレまわり——尿の飛び散りが拭けていない(=しゃがむ・かがむが難しい)
  • ゴミ——分別と持ち出しができていない(=曜日の把握と運搬の両方が要る)

**どれも気力の問題に見えて、実際は体力と段取りの問題です。**そしてここが崩れはじめると、片づけが追いつかなくなり、家が荒れ、外から人を呼びづらくなり、さらに孤立する——という順に進みます。

このあたりまで来ていたら、家族だけで抱えずに地域包括支援センターに状況を伝えてください。訪問介護の生活援助(掃除・洗濯・買い物・調理)や、自治体のゴミ出し支援など、使える手があります。介護保険サービスの種類も一度ご覧ください。

排泄のことで困っている場合は親が便をさわってしまうとき、在宅の回し方全般は在宅介護のコツと限界にまとめています。

在宅の限界を感じたら

正直なところを書きます。においが続いている家庭では、清潔を保つ作業そのものが、すでに家族の手に余っていることがほとんどです。

週に何回、親を風呂に入れられていますか。着替えと洗濯は追いついていますか。それを何年続けられますか。

施設では、これが仕組みとして用意されています。特別養護老人ホームの運営基準(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第13条第2項)は、こう定めています。

一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない。

同じ条文には、排せつの自立について必要な援助を行うこと、離床・着替え・整容等の介護を適切に行うことも定められています。入浴も着替えも、家族の気力ではなく基準として担保されているということです。

これは「家族の努力が足りない」という話ではありません。週2回の入浴を、仕事や自分の生活と並行して何年も続けるほうが無理がある、という話です。

関連記事

出典・参考

  • 国立長寿医療研究センター「におい大丈夫ですか?」(においの低下は意外と気がつきにくく、ほかの人がにおっているのに自分がわからなくて、はじめてにおいの低下に気がつく場合/視力や聴力の低下のように周りの人が気づくこともないため、においの低下がずいぶんたってから見つかることがあります/加齢=年をとるにつれて、においも低下することが知られています/アルツハイマー病やパーキンソン病などではにおいも低下します。これらの疾患では認知機能の低下よりも、においの低下のほうが数年早く起こることが知られています/においの低下がある場合は、もの忘れなどが起こらないか注意しておく必要があります/火事の煙や有毒なガスのにおいがわからなければ、逃げ遅れて命に関わります):https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/16.html
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「口臭の原因・実態」(山賀孝之・松本歯科大学歯学部公衆衛生学講座教授。口臭の大部分(80%以上)は口腔内の気体由来/歯周病・舌苔が原因のほとんどを占め、この両者では舌苔からの産生量の方が多いといわれています):https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-07-001.html
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「口臭の治療・予防」(舌の清掃による舌苔の除去が最も有効な予防法です/一日の舌清掃の回数は、起床時の一回で結構です/歯周病はほとんど痛みもなく進行していきます/何の自覚もないのに家族から口臭を指摘されるようになったら、歯科医院を受診して歯周病の検査を受け、専門的な治療を受けることで改善します):https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-07-002.html
  • 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「訪問介護(ホームヘルプ)」(訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者の自宅を訪問し、食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活の支援(生活援助)をします):https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group2.html
  • 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「訪問入浴介護」(看護職員と介護職員が利用者の自宅を訪問し、持参した浴槽によって入浴の介護を行います/利用者の身体の清潔の保持、心身機能の維持回復を図り):https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group3.html
  • 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「通所介護(デイサービス)」:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group7.html
  • 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第13条(介護)第2項(一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999406&dataType=0&pageNo=1

まとめ

  • 親のにおいはだらしなさではありません。本人に自覚が無いことと、清潔を保つ作業ができなくなっていることが重なって起きています
  • 国立長寿医療研究センターは、においの低下について「視力や聴力の低下のように周りの人が気づくこともないため、においの低下がずいぶんたってから見つかることがあります」としています
  • ⚠️ においの低下はもの忘れより数年早く起こることがあり、同センターは「もの忘れなどが起こらないか注意しておく必要があります」と書いています
  • においは発生源で4つに分ける(口/体・頭皮/排泄/家)。頼む相手がそれぞれ違います
  • 口のにおいは大部分(80%以上)が口の中。歯周病と舌苔がほとんどで、舌の清掃は起床時の1回で十分です
  • 家族が気づいたことは、受診の入口として公的資料に書かれています。責める人ではなく、歯科につなぐ人になってください
  • ⚠️ 歯周病はほとんど痛みなく進みます。痛がっていないことは、大丈夫の証明になりません
  • 入浴は家族が入れなくていい。訪問介護・訪問入浴介護・デイサービスの3本があります
  • ⚠️ 「くさい」と言わない/消臭剤で覆わない/全部を一度に変えない。理由を「におい」にせず、寒いから・入れ歯が合わないから、に置き換えます
  • 施設では入浴が基準として担保されています(特養は一週間に二回以上の入浴又は清しき)。家族の気力に頼らない仕組みです