有料老人ホームを探していると、「入居一時金」として数十万円から、ときに数千万円という金額を目にして驚くことがあります。これは一体何のお金で、途中で退去したら戻るのか——。結論からいうと、多くの場合これは**入居後の家賃などをまとめて前払いする「前払金」**で、退去時にはまだ使われていない分(未償却分)が返ってきます。さらに、契約後おおむね90日以内なら原則全額戻る「90日ルール」や、倒産に備える保全措置もあります。この記事で、仕組みと確認すべきポイントを整理します。
入居一時金(前払金)とは何のお金?
有料老人ホームの費用は、大きく「入居時にかかる初期費用」と「毎月かかる月額費用」に分かれます。このうち初期費用として求められることがあるのが入居一時金です。
多くのホームで、入居一時金は**家賃などの前払い(前払金)にあたります。毎月の家賃を入居時にまとめて前払いしておくイメージで、前払いした分だけ月々の家賃負担が軽くなる(または不要になる)**代わりに、まとまったお金が最初に必要になります。金額は施設によって幅が大きく、0円(月払いのみ)のホームから、数千万円のホームまでさまざまです。
なお、老人福祉法では、家賃・敷金・介護等サービスの費用以外の名目で「権利金その他の金品」を受け取ることは禁止されています。「入会金」「協力金」といった不明瞭な名目のお金を求められたら、その根拠を必ず確認しましょう。
初期償却と償却期間——前払金が減っていく仕組み
前払金は、入居後に少しずつ「償却(使ったことにする)」されていきます。ポイントは2つです。
- 初期償却:入居した時点で、前払金のうち一定割合をまず償却する契約が多くあります(例:入居時に◯%を償却)。この部分は、すぐ退去しても原則戻りません(ただし後述の90日ルールの対象期間を除く)
- 償却期間:初期償却で引いた残りを、一定期間(例:5年など)で毎月少しずつ償却していきます。この期間内に退去すれば、まだ償却されていない分(未償却分)が返還金として戻ります
つまり、償却期間より前に退去すれば返還金がある一方、償却期間を過ぎて長く住んだ後は返還金は基本的にありません。初期償却の割合と償却期間は施設ごとに契約で決められているため、契約前に「初期償却は何%か」「償却期間は何年か」「途中退去したらいくら戻るか」を必ず確認することが、後悔しないコツです。
90日ルール(短期解約特例)とは?
「入居してみたけれど、思っていた雰囲気と違った」「体調が変わって別の施設に移ることになった」——そんなときのための仕組みが**90日ルール(短期解約特例)**です。
契約締結日からおおむね90日以内に契約を解除した場合(入居者が亡くなった場合を含む)、受け取った前払金を全額返還しなければならない、と定められています(老人福祉法。2012年4月施行)。この期間内であれば、初期償却分も返還の対象になります。
ただし、まったくの無料で住めるわけではなく、実際に住んだ日数分の家賃・管理費などの実費は差し引かれます。それでも、「最初の3か月は、実質お試し期間として守られている」と理解しておくと安心です。契約書に「解約は1か月前までに通知」などと書かれていても、90日以内の解約であればこのルールが優先されます(内閣府 消費者委員会の建議を経て法制化されました)。
施設が倒産したら?前払金の「保全措置」
高額な前払金を払った後に施設が倒産したら――という不安に応えるのが保全措置です。
2018年4月以降に入居した場合、前払金には保全措置が義務づけられています(老人福祉法)。事業者が倒産などで前払金を返せなくなったとき、未償却分のうち最大500万円までが、銀行の債務保証・保険会社の保険・公益社団法人 有料老人ホーム協会の保証などの方法で、入居者(や家族)に支払われる仕組みです。
上限が500万円のため、それを超える高額な一時金の全額が守られるわけではありませんが、重要なセーフティネットです。契約前に、**「前払金がどの方法で保全されているか」**を確認しましょう。
入居一時金で失敗しないための確認ポイント
前払金は金額が大きいぶん、契約前の確認がとても大切です。見学・契約時に、次の点をチェックしましょう。
- 総額と内訳:入居一時金は「家賃の前払い」か。ほかに敷金・管理費・介護サービス費はいくらか(→介護費用の相場)
- 初期償却の割合と償却期間:入居時に何%償却され、残りは何年で償却されるか
- 返還金の計算方法:◯年で退去したら具体的にいくら戻るか、書面で確認
- 90日ルールの記載:短期解約時の返還について契約書に明記されているか
- 保全措置の方法:どの方法(銀行・保険・協会保証)で保全されているか
- 月払いプランの有無:一時金を払わず月払いにできるプランがあるか、その場合の月額はいくらか
「一時金が高い=良い施設」ではありません。同じ条件で複数の施設を比べ、無理のない支払い方を選びましょう。見学時の比べ方は施設見学チェックリストも参考にどうぞ。
月払いと一時金、どちらがいい?
最近は、入居一時金を0円にして月払いだけにできるプランを用意するホームも増えています。どちらが得かは、入居する期間の見通しによって変わります。
- 長く住む見込みなら:前払金(一時金)ありのほうが、月々の負担が軽く、総額を抑えられることがある
- 短期・様子見なら:月払いのほうが、初期費用が少なく、途中退去のときに返還金で悩まずに済む
ただし将来の入居期間を正確に読むのは難しいものです。**「初期費用をどこまで用意できるか」「途中で住み替える可能性はどれくらいか」**を家族で話し合い、ケアマネジャーや施設の相談員にも相談して決めるのがおすすめです。介護付きと住宅型の違いは介護付き有料老人ホームと住宅型の違い、サービス付き高齢者向け住宅はサ高住とはもあわせてどうぞ。
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出典・参考
- 厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」(前払金の算定根拠の書面明示・保全措置・短期解約特例〔90日〕・権利金等の受領禁止):https://www.mhlw.go.jp/content/001347957.pdf
- 内閣府 消費者委員会「有料老人ホームの前払金に係る契約の問題に関する建議」(90日ルールの法制化・初期償却・保全措置の背景):https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2010/101217_kengi.html
まとめ
有料老人ホームの入居一時金は、多くの場合「家賃などの前払金」です。入居時の初期償却と、その後の償却期間で少しずつ消費され、償却期間内に退去すれば未償却分が返還されます。契約後おおむね90日以内なら実費を除いて全額戻る「90日ルール」、倒産に備える最大500万円の保全措置といった、入居者を守る仕組みも整っています。大切なのは、初期償却の割合・償却期間・返還金の計算方法・保全の方法を契約前に書面で確認し、月払いプランとも比べて無理のない支払い方を選ぶこと。施設さがしや費用の疑問は、AIアドバイザーにも気軽に相談してください(無料・登録不要)。