殴られた。否定され続けた。お金を取られた。あるいは、母親をかばってもらえなかった。

その親が年をとって、介護が必要になった。周りは**「親なんだから」**と言う。ケアマネジャーからも、きょうだいからも、連絡が来る。

⚠️ 先にお断りします。**この記事は「介護しなくていい」と背中を押すためのものでも、「するべきだ」と迫るためのものでもありません。**選べる形と、その根拠になる公的な資料を並べます。決めるのはあなたです。

結論を先に書きます。

  1. 法律が定めているのは「扶養」であって、同居して身の回りの世話をすることではありません
  2. その程度も方法も、最初から決まっていません(話し合い、決まらなければ家庭裁判所)
  3. あなたが引き受けなくても、行政が動く枠組みがあります

⚠️ 法的な判断は、必ず弁護士等の専門家に確認してください。ここに書けるのは、条文と国の資料が何を定めているかまでです。

法律は「介護しろ」とは書いていません

民法第877条第1項は、こうです。

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

書かれているのは扶養です。同居とも、介護とも、付き添いとも書かれていません。

そして、その中身については第879条があります。

扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。

**「どこまで」も「どういう形で」も、最初から決まっていません。**まず当事者の話し合いで決め、決まらなければ家庭裁判所が判断します。しかもその判断は「その他一切の事情」を考慮して行われます。

さらに第880条は、こう定めています。

扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

**一度決めたら一生、でもありません。**事情が変われば変えられる、という前提で法律は作られています。

⚠️ もう一度書きます。ここで言えるのは条文が何を定めているかまでで、あなたの状況にどう当てはまるかは専門家の領域です。

「介護しない=虐待」になりますか

これを心配して動けなくなる人がいます。

高齢者虐待防止法が対象にしているのは、養護者による行為です。厚生労働省の国マニュアルは、養護者をこう説明しています。

金銭の管理、食事や介護などの世話、自宅の鍵の管理など、何らかの世話をしている者(高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等)が該当すると考えられますが、同居していなくても、現に身辺の世話をしている親族・知人等が養護者に該当する場合があります。

世話を引き受けていない人は、そもそも養護者にあたりません。

⚠️ ただし、中途半端な関わり方のほうが複雑になります

通帳だけ預かる。買い物だけ引き受ける。月に一度だけ様子を見に行く。

**これらは「何らかの世話をしている者」に該当し得ます。**つまり、距離を置きたいのに部分的に関わっている状態は、立場としてはいちばん曖昧です。

  • 関わらないと決めるなら——曖昧にせず、線をはっきり引く(そして行政に事情を伝えておく)
  • 関わると決めるなら——一人で抱えず、介護保険サービスを最初から入れる

どちらでもいい。ただし、決めないまま巻き込まれるのがいちばん消耗します。

お金の管理をめぐる責任の範囲については、きょうだいの使い込みでも同じマニュアルを扱っています。

親が生活保護を申請したら、私に連絡が来ますか

いちばん多い不安だと思います。ここには、はっきりした国の文書があります。

厚生労働省の事務連絡「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」(令和3年2月26日)は、まずこう整理しています。

扶養義務者による扶養の可否等が、保護の要否の判定に影響を及ぼすものではなく、「扶養義務の履行が期待できない」と判断される扶養義務者には、基本的には扶養義務者への直接の照会(以下、「扶養照会」という。)を行わない取扱いとしている。

あなたが援助できるかどうかで、親が保護を受けられるかが決まるわけではない。そして、一定の場合にはそもそも連絡しない取扱いになっています。

「扶養義務履行が期待できない者」の例

同じ文書が挙げているのは、次のような場合です。

② 要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない(例えば、当該扶養義務者に借金を重ねている、当該扶養義務者と相続をめぐり対立している等の事情がある、縁が切られているなどの著しい関係不良の場合等が想定される。なお、当該扶養義務者と一定期間(例えば10年程度)音信不通であるなど交流が断絶していると判断される場合は、著しい関係不良とみなしてよい。)

③ 当該扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる者(夫の暴力から逃れてきた母子、虐待等の経緯がある者等)

「虐待等の経緯がある者」が、国の文書に例として書かれています。

「証明できないから無理」とは書かれていません

ここも大事な点です。同じ文書は、判断の運用についてこう補足しています。

10年程度音信不通である場合は、その他の個別事情の有無を問わず、交流断絶と判断してよいこと。また、音信不通となっている正確な期間が判明しない場合であっても、これに相当する期間音信不通であるとの申出があり、その申出の内容が否定される明確な根拠がないことをもって、該当するものと判断して差し支えないとの趣旨で、「程度」としていること。

証拠を揃えきる必要はない、という趣旨で書かれています。

⚠️ ただし、実際の判断は福祉事務所が個別に行います。**事情は隠さず、最初に伝えてください。**言わなければ、伝わりません。

私が引き受けなければ、親は放置されますか

「自分がやらなければ親が死ぬ」——この構図に縛られている人は多いはずです。

厚生労働省の国マニュアルは、支援を拒む高齢者への対応として、こう書いています。

必要に応じて、高齢者虐待防止法の取扱いに準じた対応として、やむを得ない事由による措置等による保護や成年後見制度の市町村長申立て等の権限行使等を検討します。

家族が動かない場合に、行政の側から動く仕組みがあります。

だから、最初にやることは我慢することではなく、伝えることです。

  • 市区町村の高齢福祉担当窓口、または地域包括支援センターに連絡する
  • **「事情があって、自分は関われません」**と伝える(詳しく話す必要はありません)
  • 連絡先をどこまで開示するかを決める

**関われないと伝えること自体が、支援の入口になります。**黙って連絡を絶つより、事情を伝えたうえで距離を取るほうが、結果として親にも支援が届きます。

⚠️ ただし、行政がどこまで動くかを家族が決めることはできません。できるのは、状況を正確に伝えるところまでです。

「やる」「やらない」の二択にしないでください

全部引き受けるか、完全に縁を切るか。この二択にすると、たいてい決められません。実際には段階があります。

距離の取り方具体的には向いている状況
関わらない連絡先を伝えない。行政には事情だけ伝えておく会うことが身の安全に関わる
手続きだけ契約・支払いの窓口にはなるが、身体の介護はしない顔を合わせたくないが、放置も苦しい
お金だけ金銭的な扶養に限定する会うと消耗する。距離は保ちたい
見守るだけケアマネジャーとの連絡係になる情も憎しみも、どちらもある
引き受けるただし外部サービスを最大限入れる決めた場合

**そして、途中で変えていいです。**民法880条が「事情に変更を生じたとき」の変更・取消しを定めているのと、考え方は同じです。最初の決定に縛られる必要はありません。

引き受けると決めた場合、自分をどう守りますか

決めたのなら、次は守り方です。

  • 一人でやらない——訪問介護、デイサービス、ショートステイを最初から入れる。「限界が来てから」では遅いです
  • 二人きりの時間を減らす——第三者がいる場面を増やすと、支配の再現が起きにくくなります
  • 記録を残す——使ったお金と時間。あとできょうだいと揉めたときに、これだけが根拠になります
  • 限界を先に決める——「ここまでやったらやめる」を、始める前に言葉にしておく
  • 危ないと感じたら相談する——親に手を上げてしまいそうなとき、暴言を受けているときは、我慢ではなく相談です

⚠️ 過去に暴力があった関係では、介護の場面でそれが戻ることがあります。「もう年寄りだから大丈夫」と考えないでください。

罪悪感について

引き受けなければ「冷たい」と言われます。引き受ければ、今度は自分がすり減ります。

⚠️ ここには正解がありません。誰かがあなたに代わって決めることもできません。

ただ、ひとつだけ言えることがあります。**決めないまま巻き込まれるのが、いちばん消耗します。**周りに流されて始めた介護は、やめどきも自分では決められなくなります。

**決めていい。そして、変えていい。**この2つを持っておいてください。

在宅の限界を感じたら

正直に書きます。過去に傷つけられた関係で、同居して介護をするのは、いちばん危険な形です。

密室で、二人きりで、逃げ場がない。過去の関係が、そのまま再現される条件がそろっています。

施設に入ると、**常に第三者の目が入ります。**支配も暴力も、成立しにくくなります。あなたが会う頻度も、自分で決められます。距離を取ったまま、必要な世話は届くという形が作れます。

費用は原則として本人の年金や資産から支払います。足りない場合は介護費用が払えないとき、費用の軽減制度をご覧ください。

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出典・参考

  • 民法(明治29年法律第89号)第877条(扶養義務者)・第878条(扶養の順位)・第879条(扶養の程度又は方法)・第880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)(直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある/扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める/協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる):https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 厚生労働省 社会・援護局保護課「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」(令和3年2月26日 事務連絡。扶養義務者による扶養の可否等が、保護の要否の判定に影響を及ぼすものではなく、「扶養義務の履行が期待できない」と判断される扶養義務者には、基本的には扶養義務者への直接の照会(扶養照会)を行わない取扱いとしている/類型②=縁が切られているなどの著しい関係不良の場合・一定期間(例えば10年程度)音信不通であるなど交流が断絶していると判断される場合は、著しい関係不良とみなしてよい/類型③=扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる者(夫の暴力から逃れてきた母子、虐待等の経緯がある者等)/音信不通となっている正確な期間が判明しない場合であっても、これに相当する期間音信不通であるとの申出があり、その申出の内容が否定される明確な根拠がないことをもって、該当するものと判断して差し支えない):https://www.mhlw.go.jp/content/000746078.pdf
  • 厚生労働省 老健局「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」Ⅰ 高齢者虐待防止の基本(養護者=金銭の管理、食事や介護などの世話、自宅の鍵の管理など、何らかの世話をしている者・同居していなくても、現に身辺の世話をしている親族・知人等が養護者に該当する場合があります/必要に応じて、高齢者虐待防止法の取扱いに準じた対応として、やむを得ない事由による措置等による保護や成年後見制度の市町村長申立て等の権限行使等を検討します):https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001452979.pdf
  • 厚生労働省「生活保護制度」(制度の概要ページ):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html

まとめ

  • 民法が定めているのは扶養であって、同居して身の回りの世話をすることではありません
  • **程度も方法も最初から決まっていません。**協議で決め、調わなければ家庭裁判所が「その他一切の事情を考慮して」定めます(第879条)
  • 一度決めたあとでも、事情が変われば変更・取消しができます(第880条)
  • 世話を引き受けていない人は「養護者」にあたりません。⚠️ただし通帳を預かる等の部分的な関わりは該当し得るので、線は曖昧にしないほうが安全です
  • 親が生活保護を申請しても、扶養できるかどうかで保護の要否は決まりません
  • ⚠️ 「虐待等の経緯がある者」は、扶養照会を控える例として国の文書に明記されています。10年程度の音信不通も、著しい関係不良とみなしてよいとされています
  • **証拠を揃えきる必要はありません。**期間が不明でも、申出を否定する明確な根拠がなければ該当と判断して差し支えない、とされています
  • あなたが引き受けなくても、やむを得ない事由による措置や成年後見制度の市町村長申立てという道があります
  • 最初にやることは我慢ではなく、市区町村や地域包括支援センターに「関われない」と伝えることです
  • **全か無かにしないでください。**関わらない/手続きだけ/お金だけ/見守るだけ/引き受ける——段階があり、途中で変えていいです
  • ⚠️ 過去に傷つけられた関係で同居介護はいちばん危険な形です。第三者の目が入る形を選んでください
  • ⚠️ 法的な判断は、必ず弁護士等の専門家に確認してください