大声で怒鳴ってしまった。腕を強くつかんでしまった。振り上げかけた手を、すんでのところで止めた——そして、そんな自分にぞっとする。
誰にも言えないまま、今日もひとりで抱えていませんか。
結論からいうと、**それは性格の問題ではなく、限界が近いというサインです。**そして相談窓口は、あなたを罰するためだけの場所ではありません。
根拠になる法律は、正式名称を**「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」**といいます。法律の名前そのものに、介護している家族への支援が入っています。
まず、その場を離れてください
国立長寿医療研究センターは、介護者のストレスへの対応をこう示しています。
介護者のストレスの場合は、やはり一度その場から離れることが良いでしょう。**怒りを鎮められる距離を測ってください。**少し離れて客観的に自分と本人を見つめられる距離を時々とられるようにすると良いと思います。
「怒りを鎮められる距離を測る」——これは、感情論ではなく手順として書かれています。
- 別の部屋に行く
- 玄関の外に出る
- 洗濯物を取りに行く
- 車の中に座る
**何分でも構いません。**その場にとどまって耐えることが正解ではありません。
責任感の強い方ほど、離れることに罪悪感を持ちます。ただ、**離れることは放置ではありません。**そこにとどまって取り返しのつかないことをするより、はるかに本人を守っています。
今すぐ使える離れ方
| 状況 | すること |
|---|---|
| カッとなった | 返事をせずに部屋を出る(説明しなくていい) |
| 手が出そう | 手をポケットに入れて外へ出る |
| 夜、限界 | 電気をつけて別室で座る。朝まで持たせる |
| 毎日続く | ケアマネジャーに電話して「限界です」と言う |
我慢は、本人のためにもなりません
「自分さえ我慢すれば」と考える方は多いと思います。ただ、同センターははっきりこう書いています。
介護者のストレスのため、ご本人の症状が悪化し、薬を増量ということは本末転倒です。
**介護者の状態は、本人の状態にはね返ります。**あなたが限界のまま続けることは、本人にとっても良い結果になりません。
そして同センターは、逆方向の可能性にも触れています。
ご本人のここ最近の認知症の症状はどうでしょうか?悪くなっていないでしょうか?そういったことが、介護する側の原因になっていることもあります。 もしも、患者自身の症状悪化がある場合は早めに病院へ受診されることをお勧めします。全身状態を調べ、身体に不調がないか、調べてもらってください。
つまり、介護が急につらくなった背景に、本人の体調変化があることがあります。痛み、便秘、発熱、脱水、薬の影響——本人が言葉にできない不調が、怒りっぽさや介護抵抗として出ていることがあります。
これは暴言や異食の記事にも書いたとおりです。「相手が変わった」と感じたら、まず体を疑う。
「できていたのに、できなくなった」のは当然です
同センターは、介護者に向けてこう書いています。
これまで出来ていたのだから、これからもできる。と思っている介護の方が多いと思います。すべてではないですが、認知症は進行します。介護者も介護力は変化します。一人では認知症ケアはできません。
「一人では認知症ケアはできません」——公的な研究機関が、そう明言しています。
以前と同じようにできなくなったのは、あなたが弱くなったからではありません。介護の負荷そのものが変わったからです。同じやり方を続けようとするほど、無理が出ます。
同センターは続けて、上手にサービスを利用して、本人と穏やかな時を過ごせるようにとしています。
相談窓口は、罰するためだけの場所ではありません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
高齢者虐待に関する法律の正式名称は、**「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」**です。養護者とは、介護している家族のことです。
そして厚生労働省が示している国の手引きも、**「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」**という題で、令和8年3月に改訂されています。
制度の設計そのものに、「介護している家族を支える」ことが並んで入っているということです。
相談先
- 市区町村の高齢者虐待の担当窓口——高齢福祉課、介護保険課など名称は自治体で異なります
- 地域包括支援センター——いちばん相談しやすい入口です。無料。地域包括支援センターとは
- ケアマネジャー——すでに介護保険を使っているなら、まずここへ。ケアマネの選び方・変更
電話するのが怖いときは
- 匿名で「こういう状況なのですが」と聞くだけでも構いません
- 「虐待」という言葉を使う必要はありません。「限界で、手が出そうで怖い」で伝わります
- 家族が自分から相談することは、隠していた事案が見つかるのとはまったく違います
⚠️ ただし正直に書きます。**制度には通報の仕組みも含まれています。**その先で何が起きるかは、状況によって違います。それでも、限界のまま黙って続けるほうがリスクが高いというのが、この記事の立場です。
手を上げてしまった場合
もう起きてしまった場合も、隠さないでください。
- その日のうちに、離れる時間をつくる
- ケアマネジャーか地域包括支援センターに、事実として伝える
- 本人にけががあれば受診する(隠すと、あとでもっと大きな問題になります)
- 繰り返さないための体制(ショートステイ、サービス増、施設)を相談する
**一度あったことは、体制を変えないとまた起きます。**気持ちの問題として片づけないでください。
眠れていますか
夜間の介護が続いている場合、睡眠不足そのものが怒りの原因になります。
- 夜、親が寝てくれない——昼夜逆転と夜間不穏
- ショートステイとは——連続して眠れる夜をつくる
数日でも続けて眠れると、見え方が変わることがあります。「気の持ちよう」ではなく、体の問題として扱ってください。
介護疲れ・介護うつもあわせて読んでみてください。
在宅の限界を感じたら
手が出そうになるところまで来ているなら、それは家族という形での介護が限界に達しているサインです。愛情の量の問題ではありません。24時間ひとりで担う設計に無理があるという、それだけのことです。
施設では職員が交代で関わります。だからこそ、感情をぶつけずにいられます。あなたが同じことをできないのは、あなたが交代要員のいない場所に立っているからです。
認知症の方の住まいとしては、少人数で家庭的な環境のグループホームが代表的な選択肢です。認知症の方向け施設一覧から、お住まいの地域の施設を確認できます。進め方は認知症の親の施設選び、本人が嫌がる場合は親が施設を嫌がるときを参考にしてください。
**施設に預けることは、見捨てることではありません。**関係を壊さずに続けるための方法のひとつです。
関連記事
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- 親の暴言がつらい——暴言・暴力の背景
- 夜、親が寝てくれない——昼夜逆転と夜間不穏
- 認知症の親への接し方——否定しない対応の基本
- ショートステイとは——距離をとる時間をつくる
- 地域包括支援センターとは——最初の相談窓口
出典・参考
- 厚生労働省「高齢者虐待防止」(根拠法の正式名称=「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」/国マニュアル=「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和8年3月改訂)/法律に基づく対応状況等に関する調査結果、都道府県による公表、研修・検証資料等を掲載):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/boushi/index.html
- 厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和8年3月改訂の国マニュアル):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200478_00004.html
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症の人と上手に向き合うために」よくある質問(介護者のストレスのため、ご本人の症状が悪化し、薬を増量ということは本末転倒/ご本人のここ最近の症状が悪くなっていないかを確認する・そういったことが介護する側の原因になっていることもある・患者自身の症状悪化がある場合は早めに病院へ受診し全身状態を調べ、身体に不調がないか調べてもらう/介護者のストレスの場合は、やはり一度その場から離れることが良い・怒りを鎮められる距離を測ってください・少し離れて客観的に自分と本人を見つめられる距離を時々とる/これまで出来ていたのだから、これからもできる、と思っている介護の方が多いが、認知症は進行し、介護者も介護力は変化する。一人では認知症ケアはできません・上手にサービスを利用して本人と穏やかな時を過ごせるように):https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/answer.html
- 厚生労働省「地域包括支援センター」(高齢者の総合相談窓口としての役割と設置):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
まとめ
- 手が出そうになるのは性格の問題ではなく、限界のサイン
- 対処として示されているのは我慢ではなく、その場を離れること。「怒りを鎮められる距離を測ってください」
- 我慢は本人のためにもならない——介護者のストレスで本人の症状が悪化することがあると指摘されている
- 介護が急につらくなった背景に、本人の体調変化があることも。症状悪化があれば早めに受診し全身状態を調べてもらう
- 「できていたのにできなくなった」のは当然。認知症は進行し、介護力も変化する。「一人では認知症ケアはできません」
- 法律の正式名称は**「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」**。名前そのものに介護者への支援が入っている
- 窓口は市区町村・地域包括支援センター。「虐待」と言う必要はなく「限界で、手が出そうで怖い」で伝わる
- ⚠️ 制度には通報の仕組みも含まれる。それでも限界のまま黙って続けるほうがリスクは高い
- すでに手を上げてしまった場合も隠さない。けががあれば受診し、繰り返さない体制を相談する
- 交代要員のいない場所に立ち続ける必要はありません。認知症の方向け施設一覧から次の選択肢を確認できます