「この子を置いてはいけない」。
入院をすすめても、施設の話を出しても、そこで話が止まる。実際、親が施設に入らない理由の一番上に犬や猫がいるというご家庭は、めずらしくありません。
結論からいうと、これは家庭の事情ではなく、国が想定している課題です。環境省のパンフレットには、シルバー世代の飼い主の声として**「お医者さんに入院が必要といわれたけど世話をどうしよう・・・」という吹き出しがそのまま載っています。そして「保健所に持っていく」「置いていく」は、法律上ほぼ選べません**。この記事では、選べない理由、実際に選べる手段、ペット相談可の施設の探し方、そして親が元気なうちにやっておく6つの備えを整理します。
なぜ「保健所に引き取ってもらう」が選べないのですか?
多くの方が最後の手段だと思っている道が、いまは開いていません。
動物愛護管理法は第35条第1項で、都道府県等は犬猫の引取りを所有者から求められたときは引き取らなければならないと定めています。ただし、同じ条文のただし書きがこう続きます。終生飼養(第7条第4項)の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合には、その引取りを拒否することができる——。
つまり、「飼えなくなったから」では引き取ってもらえないことがあるということです。
そして、置いて出ていく・どこかに放すといった行為は**「遺棄」**にあたります。同法第44条第3項は、愛護動物を遺棄した者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処すると定めています。犯罪です。
⚠️ ここを知らないまま、切羽詰まった家族が最悪の判断をしてしまうことがあります。先に知っておいてください。
なお、同法第7条第4項は飼い主の努力義務として終生飼養——できる限り、その動物が命を終えるまで適切に飼養すること——を定めています。責めるための条文ではなく、「引き取り手を探す」以外の道が用意されていないことの理由です。
では、実際にどんな選択肢がありますか?
期間で分けて考えると整理しやすくなります。
| 期間 | 選択肢 | 注意点 |
|---|---|---|
| 数日〜2週間(入院・ショートステイ) | 家族・友人・近所の人/かかりつけの動物病院/ペットホテル/ペットシッター | ワクチン接種証明を求められることが多い。当日には頼めないので事前に当たりをつけておく |
| 数か月(長期入院・リハビリ) | ペットシッターの定期利用/親族が引き取る/一時預かりのボランティア団体 | 費用が積み上がる。誰が払うかを先に決める |
| もう戻れない(施設入居・看取り期) | 老犬・老猫ホーム/新しい飼い主を探す(譲渡)/ペット相談可の施設に一緒に入る | 老犬・老猫ホームは民間サービス。費用と契約内容をよく確認する |
環境省のパンフレットは、最後の段の選択肢として老犬・老猫ホームを名指しで挙げ、ペットを預かり亡くなるまで世話をしてくれる民間業者(第一種動物取扱業)があります。よく調べて相談のうえ、利用するようにしましょうと書いています。第一種動物取扱業は都道府県知事等の登録を受けた事業者です。契約前に登録を確認してください。
訪問介護のヘルパーに、犬の散歩を頼めますか?
**頼めません。**ここは早めに知っておいたほうが、ケアプランを組むときに混乱しません。
訪問介護でヘルパーができるのは、利用者本人の日常生活に必要な範囲の援助に限られます。草むしりや大掃除と同じく、ペットの世話は「日常生活の範囲を超える家事」として介護保険の対象外です。詳しくは訪問介護(ホームヘルプ)でできること・できないことにまとめています。
つまり、親の生活とペットの世話は、別々に手当てが必要です。散歩・餌やり・トイレ掃除はペットシッターや家事代行(保険外)を使うことになります。
💡 それでも、**ケアマネジャーには必ず「犬がいます」と伝えてください。**ケアプランには書けなくても、訪問時間の組み方や、地域のペットシッター・ボランティア情報を知っていることがあります。窓口はケアマネジャー、担当がいなければ地域包括支援センターです。
ペットと一緒に入れる高齢者施設はありますか?
数は限られますが、あります。ただし施設の種類によってまったく事情が違います。
| 施設 | ペットの可否の傾向 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム・介護老人保健施設などの介護保険施設 | 基本的に動物の飼育は想定されていない |
| サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホーム | 「ペット相談可」がある。住まいとしての性格が強いほど可能性が高い |
| 介護付き有料老人ホーム | 施設によって分かれる |
⚠️ **「ペット可」という言葉の中身は、施設ごとにまったく違います。**見学のときに必ず確認してください。
- 頭数・体重・種類の制限(小型犬のみ、猫は不可、など)
- 居室内のみか、共用部も連れて歩けるか
- 世話は誰がするのか(原則は本人。できなくなったときの取り決めがあるか)
- 追加費用(月額の加算、敷金の上乗せ、原状回復費)
- 本人が入院・急変したときにペットはどうなるのか
- ペットが亡くなったあとも住み続けられるのか
数が少ないぶん、探し始めが早いほど選べます。エリア別の施設一覧で候補を絞り、気になる施設に直接「ペットの相談はできますか」と問い合わせるのが確実です(当サイトの一覧にペット可の絞り込みはないため、確認は施設へお願いします)。見学時の確認事項は施設見学チェックリストもあわせてどうぞ。
親が元気なうちに、やっておくことは?
環境省のパンフレット「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」は、**「困った時に備えて」**として6つを挙げています。どれも、倒れてからでは間に合いません。
- 一時的な預け先を見つけておく — 家族、友人、近所の人など、いつも会っている人ならペットも安心です
- かかりつけの動物病院を作る — 歩いて通える距離に。普段から検診で信頼関係を築いておくと、一時的な預かりができる場合もあります
- ペットホテルやペットシッターを調べておく — 事前に探して、試しに短期間で利用してみましょう。長期は早めに相談
- ペットを清潔にしておく — ノミ・ダニの予防、ワクチン接種、寄生虫の駆除。預けるときに必要になります
- 基本的なしつけをしておく — トイレのしつけ、ケージの中でおとなしくできること。預けた先で迷惑にならないように
- ペットの健康手帳を作る — ワクチン接種の記録など。緊急のときに役に立ちます
同パンフレットは、この項の冒頭に**「一人で抱え込まず、周りの人に相談しましょう!!」**と書いています。親にではなく、あなたに向けた言葉としても読めます。
なお、費用の目安として同パンフレットは、1か月あたりの平均支出総額(医療費等含む)を犬10,368円・猫6,236円、平均寿命を犬14.29歳・猫15.32歳としています(一般社団法人ペットフード協会 平成30年全国犬猫飼育実態調査より)。あと何年、誰が払うのかを先に話しておくと、いざというとき揉めません。
お金と法律の備えはありますか?
あります。環境省のパンフレットも「将来にもっと備えるために」として、ペットのための遺言・信託を挙げ、自分がペットより先に死亡してしまったときのために、ペットを誰に託すか、残した財産をペットのためにどう使うか決めておくことができますと書いています。
- 遺言(負担付遺贈) — 「この子の世話をすることを条件に、財産を渡す」という形にできます
- 信託 — 親が元気なうちに、ペットの世話をする人に財産の管理を託す仕組み。認知症で口座が凍結されても続けられるのが強みです。考え方は家族信託とはへ
- 判断能力が落ちたあと — 成年後見制度。ただし後見人はペットの世話そのものをする役ではありません
- ペット保険 — 動物病院の負担を軽くする方法として同パンフレットが挙げています
⚠️ どれも親に判断能力があるうちにしか作れないものがあります(特に信託)。話を切り出すのが早すぎるということはありません。
「この子がいるから施設に行かない」と言われたら
正面から説得しようとすると、たいてい止まります。順番を変えてみてください。
| 伝わりにくい | 伝わりやすい |
|---|---|
| 「犬は誰かに譲ればいいでしょ」 | 「この子の預け先を、先に一緒に決めておこう」 |
| 「そんなこと言ってる場合じゃない」 | 「お母さんが入院したら、この子が困るよね」 |
| 「施設はペット禁止だから」 | 「ペットの相談ができる施設も探してみるね」 |
| 「もう世話できてないじゃない」 | 「散歩だけ、頼める人を探してみようか」 |
親が守ろうとしているのは、自分の生活ではなく、この子の生活です。そこを否定しない限り、話は続きます。逆にいえば、「この子の行き先が決まっている」ことが、施設の話を進める鍵になることがあります。
施設を嫌がる気持ち全般については親が施設を嫌がるときの伝え方、罪悪感については在宅介護の限界の見極め方もあわせてどうぞ。
在宅の限界を感じたら
ペットの世話は、介護する側の負担としても静かに重くなります。散歩、餌、トイレ、通院。親の介護に、もう一つの介護が乗っている状態です。それを一人で抱えていれば、消耗するのは当然です。
環境省のパンフレットが繰り返し書いているとおり、一人で抱え込まないこと。預け先を探すのは、見捨てることではありません。この子が生きていける形を先に作ることです。
判断の目安は在宅介護のコツと限界の見極め方、消耗しきる前に介護疲れ・介護うつも読んでみてください。ペットの相談ができる施設を含め、施設探しはエリア別の施設一覧から始められます。
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出典・参考
- 環境省 パンフレット「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」(飼い主の声=「お医者さんに入院が必要といわれたけど世話をどうしよう・・・」/万が一飼い続けることができなくなったときの対策をとっておくのがシルバー世代の責任/「困った時に備えて」6項目=一時的な預け先・かかりつけの動物病院〔一時的な預かりができる場合もある〕・ペットホテルやペットシッター・清潔〔ノミダニ予防/ワクチン/寄生虫駆除〕・基本的なしつけ〔トイレ/ケージ〕・ペットの健康手帳/「一人で抱え込まず、周りの人に相談しましょう」/将来にもっと備えるために=ペットのための遺言・信託/老犬・老猫ホーム〔ペットを預かり亡くなるまで世話をしてくれる民間業者=第一種動物取扱業〕/ペット保険/1か月あたりの平均支出総額 犬10,368円・猫6,236円、平均寿命 犬14.29歳・猫15.32歳〔ペットフード協会 平成30年全国犬猫飼育実態調査〕):https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0109.html
- 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第7条第4項(終生飼養の努力義務)、第35条第1項(都道府県等は引取りを求められたときは引き取らなければならない/ただし終生飼養の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合は拒否することができる)、第44条第3項(愛護動物を遺棄した者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する):https://laws.e-gov.go.jp/law/348AC1000000105
- 環境省「動物の愛護と適切な管理」(動物愛護管理法の概要、第一種動物取扱業の登録制度、パンフレット一覧):https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」訪問介護(ホームヘルプ)(本人以外のための家事や日常生活の範囲を超える家事は対象外):https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group2.html
まとめ
親の入院や施設入居でペットが行き場を失うのは、家庭の事情ではなく国が想定している課題です。まず知っておいてほしいのは、「保健所に持ち込む」は選べないことがある(動物愛護管理法35条1項ただし書きで引取りを拒否できる)、そして**「置いていく」は遺棄という犯罪**(44条3項・1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)だということ。選べるのは、数日なら家族・かかりつけの動物病院・ペットホテル、長期ならペットシッターや譲渡、もう戻れないなら老犬・老猫ホームかペット相談可の施設です。訪問介護のヘルパーに世話は頼めません(介護保険の対象外)。そして何より、環境省の6つの備え——預け先・かかりつけ医・ペットホテル・清潔・しつけ・健康手帳——は、倒れてからでは間に合いません。親が「この子がいるから」と言うなら、それは話が終わったのではなく、この子の行き先を決めれば話が進むということです。施設探しや介護の悩みは、AIアドバイザーにも気軽にご相談ください(無料・登録不要)。