廊下で。ズボンで。布団で。間に合わなかった跡を片づけながら、「なんで言わないの」と言ってしまって、そのあと自分に落ち込む。トイレのことは人に話しにくく、ひとりで抱えている方が多いテーマです。

結論からいうと、トイレに間に合わないのは意思や我慢の問題ではありません。排尿は「尿意に気づく」「トイレまでたどり着く」「脱ぐ」「座る」といういくつもの作業の連なりで、どれか一つがつまずくだけで間に合わなくなります。そして介助を嫌がるのは、拒否ではなくタイミングが合っていないだけのことがあります。この記事では、間に合わなくなる理由の分け方、そのまま使える声かけ、排尿の時間を数日記録する方法、介護保険で使える道具、そして在宅の限界の見極め方までを整理します。

なぜ、トイレに間に合わなくなるのですか?

国立長寿医療研究センターは、認知症の方の排泄についてのQ&Aで、排尿行動は、尿意があってから用を足すまで数々の作業からなりますと説明しています。そのうえで、認知症が進行すると尿意を感じたけれどトイレの場所やパンツを下ろす動作が分からなかったりします。その為失禁してしまうことがありますとし、さらに歩行で間に合わず失禁してしまうこともありますと述べています。

ここが大事なところです。「間に合わない」の中身は、人によってまったく違います。

つまずいている場所起きていることまず試すこと
気づけない尿意を感じにくい、感じても言葉にできない時間ではなく本人のサインで声をかける
たどり着けない歩く速さが落ちた、夜で暗い、廊下が遠い手すり・足元灯・ポータブルトイレ
見つけられないトイレの場所やドアが分からないドアに大きく表示する・電気をつけておく
脱げないボタン、ベルト、かたい生地で手間取るゴムウエスト・前開き・伸びる生地に変える
座れない・立てない便座が低い、支えがない補高便座・立ち上がり補助・手すり
急に増えたもともとできていたのに、ここ数日で変わった医療の可能性を先に確認する(次の章)

同センターは、トイレの場所が分からなかったら大きく記載したり、トイレ動作が分からなかったら付き添い、声かけや介助が必要かもしれませんと具体的に助言しています。**原因が違えば打つ手も違います。**まず、どこでつまずいているのかを見てください。

急に漏らすようになったときは、何を疑いますか?

「ここ数日で急に変わった」ときは、介護の工夫より先に医療を疑ってください。

国立長寿医療研究センターは、時々漏らすという相談への回答の中で、急に漏らした場合は、尿路感染かもしれません(泌尿器科)と明記しています。あわせてお薬のせいかもしれませんとも書かれています。

  • 急に回数が増えた/急に間に合わなくなった → 泌尿器科や主治医へ
  • 熱がある、尿がにごる、においが強い、元気がない → 早めに受診
  • 最近、薬が変わった・増えた → 主治医や薬剤師に相談(自己判断で中止しない)

受診をどうしても嫌がるときの進め方は、親が病院に行きたがらないときの対応にまとめています。

トイレの声かけを嫌がるのは、なぜですか?

いちばん知ってほしいのが、ここです。

国立長寿医療研究センターは、「トイレ誘導したら『今は出ない』と言うが、自発的に行く時は間に合わない」という相談に対して、こう答えています。トイレの声掛けのタイミングが違うと私たちも尿が出ないのと一緒で、ご本人さんも拒否されたのではないでしょうか。

つまり、嫌がっているのはトイレでも、あなたでもないかもしれないということです。出ないときに連れて行かれても、出ません。それは誰でも同じです。

同センターは、そのうえで何度か声をかけると「トイレ行こうかな」と思われるかもしれませんとも述べています。一度断られたことを「拒否された」と受け取らなくて大丈夫です。

「排尿の時間」を数日記録すると、何が変わりますか?

同センターがすすめているのは、ご本人さんの排尿がある時間を数日記録して、排尿ペースを知りその時間帯に声をかけてはいかがでしょうかという方法です。

そして、その方の尿が出る時の行動を注意深く観察してみて下さいとして、例えばトイレへ行く前は落ち着きがない。ズボンのすそに手をやっているなど、本人からのサインがあるかもしれない、と挙げています。

紙とペンで足ります。3日分でかまいません。

時刻できごと直前の様子(サイン)
7:10トイレで排尿起きてすぐ
10:40間に合わなかったそわそわして立ったり座ったり
13:00トイレで排尿昼食の前に自分から
15:30間に合わなかったすそを触っていた

数日分を並べると、その人の時間割が見えてきます。「2時間おきに声をかける」ではなく、その人が出る時間の少し前に声をかける——それだけで結果が変わることがあります。

この記録は、ケアマネジャーや医師に渡す資料としても強いものです。「よく漏らします」より、**「10時台と15時台に多いです」**のほうが、対策がすぐ決まります。

やってはいけない対応は?

  • 「なんで言わないの」と責める——本人が一番傷ついています。国立長寿医療研究センターは、オネショを咎められた子供と同じ気持ちですと表現しています
  • 人前で話題にする——家族や来客の前で失敗を口にしない
  • 日中の水分を減らす——脱水や便秘につながるおそれがあります。同センターは夕食後の水分はほどほどにと述べていますが、これは夜間の話です。日中の量を減らすことは、主治医に相談せずに行わないでください
  • 見つけた汚れ物を目の前で捨てる——隠すようになり、発見が遅れます
  • 「おむつにするからね」と宣言する——抵抗されているのは紙ではなく扱われ方です。段階を踏んでください
  • できていることまで介助する——ズボンだけ手伝う、座るまでを支える、など部分介助にとどめる

そのまま使える声かけは?

失敗を指摘しない言い方に置き換えます。理由を「汚れ」や「におい」にしないのがコツです。

伝わりにくい伝わりやすい
「トイレ行こう」(時間で誘う)「私も行くから、ついでに寄っていこう」
「また漏らしたの?」(何も言わず着替えを出す)「これに着替えようか」
「今のうちに行っておいて」「出かける前に、ちょっと寄っておこうか」
「おむつにするからね」「夜だけ、安心なやつにしてみない?」
「一人でできるでしょ」「ズボンだけ持ってるね」

そして間に合わなかったときは、淡々と片づける。同センターは、もし間に合わなかった時ご本人さんはとても落ち込み、自信を無くされることがあります。大丈夫だと声をかけご本人さんの気持ちに寄り添ってくださいと結んでいます。

なお、紙パンツについて同センターは、85歳では半数は時々漏らします、誰でも普通にあることです、安心パンツは、皆していることですと説明しています。特別なことではない、と本人に伝えられる根拠になります。

介護保険で使える道具はありますか?

「間に合わない」は、距離と時間の問題であることが少なくありません。だとすれば、道具で縮められます。

腰掛便座(特定福祉用具販売)

厚生労働省の基準では、腰掛便座は次のいずれかに該当するものとされています。

  1. 和式便器の上に置いて腰掛式に変換するもの(高さを補うものを含む)
  2. 洋式便器の上に置いて高さを補うもの(補高便座)
  3. 電動式又はスプリング式で便座から立ち上がる際に補助できる機能を有しているもの
  4. 便座、バケツ等からなり、移動可能である便器(水洗機能を有する便器を含み、居室において利用可能であるものに限る)=ポータブルトイレ

特定福祉用具販売は同一年度で購入できるのは10万円までで、費用はいったん全額を支払い、9割(一定以上所得の方は8割または7割)があとから戻る償還払いが基本です。

夜だけ間に合わないのであれば、寝室にポータブルトイレを置くだけで解決することがあります。ただし基準では、座位保持ができない場合や、つかまらないで歩ける・移動に介助が要らない人には使用が想定しにくい、とされています。合う・合わないは福祉用具専門相談員と確認してください。

排泄予測支援機器(2022年4月から対象)

**あまり知られていないのがこれです。**2022年4月から、排泄予測支援機器が特定福祉用具販売の種目に加わりました。厚生労働省の資料では、告示上、膀胱内の状態を感知し、尿量を推定するものであって、排尿の機会を居宅要介護者等又はその介護を行う者に通知するものと規定するとされています。

選定の判断基準(改訂案)では、検討の場面として運動動作の低下、排尿のタイミングが不明、または伝えることができない等により、トイレでの自立した排尿が困難となっていることを確認すると書かれています。まさに、この記事の読者の状況です。

ただし条件もあります。同資料は、排泄に支援が必要のない場合又は排泄が全介助の場合の使用は想定しにくいとし、事前に確認すべき点として、本人にトイレでの自立した排尿を目指す意志があるか、装着することが可能か、通知を理解でき、トイレまでの移動や誘導が可能かを挙げています。販売の前に一定期間の試用を推奨するとも書かれています。買う前に、試させてもらってください。

住宅改修(上限20万円)

介護保険の住宅改修では、手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更、引き戸等への扉の取替え、洋式便器等への便器の取替えなどが対象です。トイレまでの廊下に手すりを付ける、和式を洋式に替える、扉を引き戸にする——どれも「間に合う」に直結します。

⚠️ 住宅改修は必ず着工前に申請します。先に工事をすると1円も出ません。詳しくは介護リフォームの補助金(住宅改修費 上限20万円)、福祉用具の借り方は福祉用具レンタルと介護ベッドへ。

プロに任せていいですか?

任せてください。排泄の介助は、家族が全部背負う前提のものではありません。

  • 訪問介護——排泄介助は身体介護の中心的な内容です。決まった時間に入ってもらえます
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護——1日に複数回、短時間の訪問。夜間や早朝にも対応します
  • 訪問看護——尿路感染や皮膚トラブル、薬の影響について相談できます
  • デイサービス——日中の排泄ケアを任せられ、家族が休めます
  • ショートステイ——続いてしまった夜から離れる時間をつくります

窓口はケアマネジャー、担当がまだいなければ地域包括支援センターです。**「トイレが間に合わなくて、夜も眠れていません」とそのまま言って構いません。**サービスの全体像は介護保険サービスの種類にまとめています。

便のことで困っているときは認知症の弄便(ろうべん)、においが気になり始めたときは親のにおいが気になったらもあわせてどうぞ。

在宅の限界を感じたら

排泄には、終わりの時間がありません。夜中も、明け方もあります。眠れない日が続いているなら、それは気力の問題ではなく、体制の問題です。

知っておいてほしいのは、施設では排泄の援助が省令で義務づけられているということです。指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の運営基準は、第13条第3項で入所者に対し、その心身の状況に応じて、適切な方法により、排せつの自立について必要な援助を行わなければならないと定めています。続く第4項は、おむつを使用せざるを得ない入所者のおむつを適切に取り替えなければならないです。

読み流さないでほしいのは、この二つの順番です。まず「自立への援助」があり、そのうえで「使わざるを得ない場合のおむつ交換」。つまりおむつは前提ではなく、最後の手段として書かれている。そしてそれを、家族の気力ではなく基準として担保しているのが施設です。

判断の目安は在宅介護のコツと限界の見極め方、罪悪感については施設に入れるのは親不孝?と感じたらへ。消耗しきる前に介護疲れ・介護うつも読んでみてください。施設探しはエリア別の施設一覧から始められます。

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出典・参考

  • 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症の人と上手に向き合うために」Q&A(排泄について=排尿行動は尿意があってから用を足すまで数々の作業からなる/尿意を感じてもトイレの場所やパンツを下ろす動作が分からず失禁することがある・歩行で間に合わず失禁することもある/トイレの場所を大きく記載する・付き添いや声かけ/排尿がある時間を数日記録して排尿ペースを知り、その時間帯に声をかける/声かけのタイミングが違うと出ないのは私たちと同じで、拒否ではないかもしれない/トイレへ行く前のサイン=落ち着きがない・ズボンのすそに手をやる/間に合わなかったとき本人は落ち込み自信を無くす/85歳では半数は時々漏らす・誰でも普通にあること・安心パンツは皆している・急に漏らした場合は尿路感染かもしれない〔泌尿器科〕・薬のせいかもしれない・夕食後の水分はほどほどに・本人が一番傷ついている〔オネショを咎められた子供と同じ気持ち〕):https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/answer.html
  • 厚生労働省「福祉用具・住宅改修」(福祉用具貸与・特定福祉用具販売の対象種目=腰掛便座、自動排泄処理装置の交換可能部、排泄予測支援機器ほか/住宅改修の対象=手すりの取付け、段差の解消、床又は通路面の材料の変更、引き戸等への扉の取替え、洋式便器等への便器の取替え、付帯工事):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html
  • 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」特定福祉用具販売(対象9種目/同一年度で購入できるのは10万円まで/償還払い):https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group22.html
  • 厚生労働省「排泄予測支援機器の種目追加に伴う取組について」介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会 第2回(令和4年3月2日)資料5(令和4年4月施行/告示上の規定=膀胱内の状態を感知し、尿量を推定するものであって、排尿の機会を居宅要介護者等又はその介護を行う者に通知するもの):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000904811.pdf
  • 厚生労働省「介護保険における福祉用具の選定の判断基準 改訂案」介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会 第1回(令和6年3月13日)資料5(腰掛便座の4類型と使用が想定しにくい状態像/排泄予測支援機器=運動動作の低下、排尿のタイミングが不明、または伝えることができない等によりトイレでの自立した排尿が困難となっていることを確認する・排泄に支援が必要のない場合又は全介助の場合は想定しにくい・販売の前に一定期間の試用を推奨・事前確認事項):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001223176.pdf
  • 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第13条第3項・第4項(排せつの自立について必要な援助/おむつを使用せざるを得ない入所者のおむつの適切な取替え):https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039

まとめ

トイレに間に合わないのは、意思や我慢の問題ではありません。排尿は「気づく」「たどり着く」「脱ぐ」「座る」の連なりで、どこか一つがつまずけば間に合わなくなります。まずどこでつまずいているのかを見てください。急に増えたときは尿路感染や薬の影響を先に疑い、泌尿器科や主治医へ。声かけを嫌がるのは拒否ではなくタイミングが合っていないだけかもしれません。排尿の時間を3日記録して、その人が出る時間の少し前に声をかけてみてください。腰掛便座・排泄予測支援機器・住宅改修で、間に合うようになることもあります。責めないこと、日中の水分を勝手に減らさないこと、そして排泄の介助を家族だけで背負わないこと。夜が続いてつらいなら、それは体制の問題です。施設探しや介護の悩みは、AIアドバイザーにも気軽にご相談ください(無料・登録不要)。