「さっきも言ったでしょ」とつい強い口調になってしまい、あとで落ち込む——認知症の親との会話で、そんな経験はありませんか。結論からいうと、認知症の方への接し方の基本は**「否定しない」ことです。そして、認知症サポーター養成講座などで伝えられている心得が「三つのない」=①驚かせない ②急がせない ③自尊心を傷つけない**。この記事では、やってはいけない対応と、場面別の声かけのコツ、そして家族が抱え込まないための相談先を整理します。
なぜ「否定してはいけない」のですか?
認知症では、体験そのものをまるごと忘れてしまうことがあります。物忘れというより、「その出来事がなかったことになる」イメージです。
だから本人の中では、話していることが事実です。そこを「違うよ」「さっき食べたでしょ」と正面から訂正されると、何が起きるでしょうか。
訂正された内容は残らず、「責められた」という不快な感情だけが残ります。
認知症になっても、感情や自尊心は最後まで残るといわれます。理由の分からない叱責が積み重なると、不安・混乱・興奮につながり、かえって対応が難しくなってしまうのです。
「否定しない」は、本人のためであると同時に、介護する側がラクになるための技術でもあります。
対応の心得「三つのない」とは?
認知症サポーター養成講座などで伝えられている、対応の基本です。
| 心得 | 具体的にどうする |
|---|---|
| ①驚かせない | 後ろから急に声をかけない。正面からゆっくり近づき、目線を合わせてから話しかける |
| ②急がせない | 話すのも動くのも、相手のペースを待つ。急かすと混乱しやすくなる |
| ③自尊心を傷つけない | 子ども扱いしない。人前で失敗を指摘しない。できないことより、できることに目を向ける |
特に見落とされがちなのが①です。忙しいとつい背後から「お母さん!」と呼んでしまいますが、認知症の方は視野や状況把握が狭くなっていることがあり、驚きが不安や抵抗につながります。一手間かけて正面に回るだけで、反応が変わることがあります。
やってはいけない対応は?
つい、やってしまいがちなものばかりです。責める意図ではなく、「そうなりやすい」ものとして知っておいてください。
- 強く否定する・訂正する:「違う」「さっき言った」——不安だけが残ります
- 叱る・怒鳴る:理由が理解されないまま、恐怖と混乱が残ります
- 子ども扱いする:本人の自尊心を傷つけ、関係が悪くなります
- 急かす:「早く」と言うほど、動けなくなることがあります
- できないことを責める:失敗の指摘は、意欲そのものを奪います
- 本人の前で「この人はもう分からないから」と話す:聞こえていますし、感情は残ります
- 一人で抱え込む:介護する側が追い詰められると、対応はさらに難しくなります
場面別、どう声をかければいい?
同じことを何度も聞かれるとき
「さっきも言ったでしょ」はNG。初めて聞かれたつもりで、短く答えるのが基本です。
繰り返しの背景には不安があることも多いので、カレンダーやメモに書いて「見れば分かる」状態にすると落ち着くことがあります。つらいときは、無理に付き合わず少し離れて構いません。
事実と違うことを言われるとき(物盗られ妄想など)
「盗ってない」と反論しても、解決しません。まず**「それは困ったね」と気持ちを受け止め**、一緒に探す姿勢を見せるほうが収まりやすくなります。見つけたときも「ほら、あったでしょ」と勝ち誇らず、本人が見つけた形にできると角が立ちません。
「家に帰る」と言うとき
今いる場所が自宅でも、本人の中では違います。説得より、「そうだね」と受け止めてから、お茶に誘う・少し一緒に歩くなど、気持ちをそらす対応が有効なことがあります。
興奮している・怒っているとき
言い返して勝とうとしないこと。安全を確保して少し離れ、時間をおくのが基本です。介護する側が疲れ切っているときほど衝突しやすいので、離れる時間を作ること自体が対応策になります。
急に様子が変わったときは、まず受診を
「今までと違う」「急に落ち着かなくなった」ときは、対応の工夫の前に体調を疑ってください。
- 痛み・便秘・脱水・発熱・感染症
- 薬の影響や飲み合わせ
- せん妄(急激に始まる混乱。原因を治すと改善することがあります)
こうした身体的な不調が、行動の変化として現れることは少なくありません。自己判断せず、**主治医・訪問看護・地域包括支援センター**に相談してください。
家族が抱え込まないために
接し方のコツを知っても、24時間365日、完璧に実践できる人はいません。イライラしてしまう自分を責めないでください。
- 地域包括支援センター:介護の相談窓口。まずここへ
- ケアマネジャー:サービスの調整。「限界です」と正直に伝えて構いません(ケアマネの選び方・変更)
- 認知症疾患医療センター・主治医:医療面の相談
- 家族会:同じ経験をした人と話せる場
- デイサービス・ショートステイ:物理的に離れる時間をつくる(認知症デイとは)
厚生労働省は、地域で認知症の人を支える認知症サポーターの養成を進めており、2024年1月には認知症基本法も施行されました。「家族だけで抱えるもの」ではなくなってきています。
在宅での対応が限界に近いと感じたら、認知症の方向けの施設の選び方や認知症の方向け施設一覧もあわせてご覧ください。
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出典・参考
- 厚生労働省「認知症施策」(認知症基本法〔2024年1月施行〕・認知症サポーター・本人と家族向けハンドブック・相談先):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
- 厚生労働省「認知症サポーター」(養成講座の位置づけ・地域で支える取り組み):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089508.html
- 埼玉県「認知症の人への対応の心得 “三つの「ない」”」(①驚かせない ②急がせない ③自尊心を傷つけない):https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/32748/9.pdf
まとめ
認知症の親への接し方の基本は「否定しない」こと。体験ごと忘れてしまうため、訂正しても内容は残らず「責められた」感情だけが残るからです。心得は三つのない=驚かせない・急がせない・自尊心を傷つけない。同じ質問には初めてのつもりで短く答え、事実と違う話はまず受け止め、興奮時は距離を取る——どれも「勝とうとしない」対応です。ただし急な変化は体調やせん妄のサインなので受診を。そして、完璧にできなくて当たり前です。地域包括支援センターやケアマネジャーに頼り、離れる時間を作ってください。施設探しや介護の悩みは、AIアドバイザーにも気軽に相談できます(無料・登録不要)。