親の通帳を、きょうだいの誰かが預かっている。残高が減っていく。何に使ったのか聞くと、はぐらかされる。あるいは、怒り出す。

言えばきょうだい仲が壊れる。言わなければ親のお金が無くなる。その間で動けなくなっていませんか。

結論からいうと、**これは家族の揉めごととして我慢するしかない話ではありません。**制度の側に窓口があります。

厚生労働省の国マニュアルは、高齢者虐待の類型のひとつである経済的虐待を、こう定義しています。

経済的虐待:養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

⚠️ 先に大事なことを書きます。**決めつけないでください。**介護費用や医療費として正当に使われていることは、よくあります。この記事は「疑う」ためではなく、事実を確認して、必要なら相談するための道筋です。

介護をしていないきょうだいでも、対象になります

ここがいちばん知られていない点です。

高齢者虐待防止法の虐待は、原則として養護者(高齢者を現に養護する者)による行為を指します。ところが厚生労働省の国マニュアルは、経済的虐待についてだけ、わざわざこう注意を促しています。

なお、下記のとおり、経済的虐待については、高齢者の親族であれば、養護者に該当しない者も、虐待の主体となりますので留意してください。

介護をしていない。同居もしていない。それでも「親族」であれば、経済的虐待の主体になり得る。

「あの人は親の面倒を見ていないのだから、制度の対象外だろう」と考えて諦めてしまう家族がいますが、それは逆です。

そもそも「養護者」の範囲も、思っているより広い

同じマニュアルは、養護者をこう説明しています。

金銭の管理、食事や介護などの世話、自宅の鍵の管理など、何らかの世話をしている者(高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等)が該当すると考えられますが、同居していなくても、現に身辺の世話をしている親族・知人等が養護者に該当する場合があります。

**「金銭の管理」が、世話の例として最初に挙がっています。**通帳を預かっている時点で、その人は養護者にあたる可能性があります。

⚠️ その前に、確認してほしいこと

窓口へ行く前に、切り分けておきたいことが2つあります。

① 介護のために使われていませんか

施設の月額費用、医療費、おむつ代、福祉用具、タクシー代。在宅でも施設でも、介護にはお金がかかります。介護費用の相場を見ると、金額の感覚がつかめます。預かっている側からすれば「立て替えている」つもりかもしれません。

② 親が認知症の場合、物盗られ妄想の可能性があります

「お金を盗られた」という訴えが、認知症の症状として出ることがあります。物盗られ妄想は、アルツハイマー型認知症の初期に多くみられる症状です。実際には使い込みが無いのに、そう語られることがあります。

どちらも「疑いを晴らす」ためではなく、間違った相手を責めないためです。

動く前に、静かに集めること

証拠を揃えきる必要はありません。ただ、話をするときの材料にはなります。

  1. 本人に確認する——誰が管理しているか、本人が納得しているか
  2. 本人の同意のもとで通帳を記帳する
  3. 施設費・医療費の領収書を集める(正当な支出との差が見えます)
  4. いつから誰が管理しているかを書き出す
  5. やりとりを記録する(日付と内容だけで十分です)

⚠️ 通帳を無断で持ち出さないでください。親の財産に勝手に手をつける行為は、立場が入れ替わればあなたが経済的虐待を疑われます。同意が取れないこと自体が相談すべき事情なので、そのまま窓口に伝えてください。

そして、**何が「不当な処分」にあたるかを判断するのは家族ではありません。**行政です。あなたが白黒つける必要はありません。

相談先は、市区町村と地域包括支援センターです

国マニュアルは、こうしています。

気になる事案を発見した場合には、市町村や地域包括支援センターに速やかに相談・通報を行います。

「虐待」という言葉を使う必要はありません。「親のお金の管理で心配なことがある」で通じます。

窓口が地域包括支援センターです。担当のケアマネジャーがいる場合は、そちらに先に相談しても構いません(ケアマネジャーの選び方・変更)。

なお根拠になる法律は、正式名称を**「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」**といいます。親に手を上げてしまいそうなときの記事にも書いたとおり、名前そのものに「養護者に対する支援」が入っています。責めるためだけの窓口ではありません。

家族が動けなくても、行政から動ける道があります

「親がきょうだいをかばう」「他のきょうだいが協力しない」——よくある行き止まりです。ここにも制度が用意されています。

市町村長申立てです。国マニュアルは、市町村が行う権限行使のひとつとして、こう挙げています。

市町村長による成年後見制度利用開始の審判請求(以下「市町村長申立て」という。)

つまり、家族が申し立てられない場合でも、市町村長が家庭裁判所へ後見開始を申し立てられるということです。家族の合意が取れないことは、手詰まりを意味しません。

さらに、事態が深刻な場合には保護の措置もあります。同法第9条第2項により、市町村は養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を、一時的に保護するための福祉の措置を講じることができるとされています。

財産管理の選択肢は、親の状態で変わります

親の判断能力使える手段
十分にある家族信託、任意後見。本人の意思で、誰に任せるかを決められる段階
低下している成年後見制度。家族が申し立てられないときは市町村長申立てという道がある

⚠️ 家族信託は、判断能力があるうちにしか契約できません。「まだ元気だから」と先送りすると、選べる手段が成年後見だけになります。きょうだい間で不安があるなら、親が元気なうちに、誰がどう管理するかを決めておくのがいちばん揉めません。

きょうだいの関係を壊さないために

現実的な話をします。**正面から問い詰めると、まず関係が壊れます。**そして関係が壊れると、介護の分担はさらに偏ります。

  • 「疑っている」ではなく「整理したい」から入る——費用の見える化を提案する形にする
  • 第三者を間に入れる——ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員が同席するだけで、話の温度が変わります
  • 記録を残す(責めるためではなく、あとで言った言わないにならないため)
  • 役割を交換する提案をする——「管理を代わる」ではなく「一緒に見る」

そもそも介護の負担がきょうだいで偏っていることが背景にある場合は、きょうだいの介護分担もあわせてご覧ください。お金の話は、たいてい分担の不公平感とつながっています。

親が亡くなったあとは、別の枠組みになります

高齢者虐待防止法は、本人が生きている間の保護の仕組みです。亡くなったあとの使い込みの清算は、相続の問題になります。

介護に貢献した分をどう評価するかについては、介護と相続——寄与分・特別寄与料にまとめています。

**生きているうちにできることと、亡くなってからしかできないことは別物です。**いま動けるのは前者だけです。

在宅の限界を感じたら

お金の管理でここまで揉めている場合、介護そのものも限界に近いことが多いです。誰が費用を出すか、誰が手を出すか——どちらも決まらないまま親の状態だけが進んでいきます。

施設に入ると、費用は明細として毎月届きます。誰かが立て替えて、誰かが疑うという構造そのものが無くなります。お金の透明性は、施設を選ぶ理由になり得ます。

老人ホームの種類で選択肢を、介護費用の相場で金額の目安を確認できます。地域から探すならエリアから施設を探す、状況から選ぶなら目的別に施設を探すが入口です。本人が嫌がる場合は親が施設を嫌がるときも参考にしてください。

ひとり暮らしの親で、金銭管理そのものが難しくなっている場合は高齢者の一人暮らしはいつまで可能かもどうぞ。

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出典・参考

  • 厚生労働省 老健局「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」Ⅰ 高齢者虐待防止の基本(経済的虐待:養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること/なお、下記のとおり、経済的虐待については、高齢者の親族であれば、養護者に該当しない者も、虐待の主体となりますので留意してください/養護者=金銭の管理、食事や介護などの世話、自宅の鍵の管理など、何らかの世話をしている者・同居していなくても、現に身辺の世話をしている親族・知人等が養護者に該当する場合があります/気になる事案を発見した場合には、市町村や地域包括支援センターに速やかに相談・通報を行います/市町村長による成年後見制度利用開始の審判請求(市町村長申立て)/高齢者虐待防止法第9条第2項=生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者の一時保護の措置):https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001452979.pdf
  • 厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(国マニュアル)」(本体ページ):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200478_00002.html
  • 厚生労働省「高齢者虐待防止」(根拠法=高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律/調査結果・研修資料等):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/boushi/index.html

まとめ

  • 親の財産をめぐる問題は、家族の揉めごととして我慢するしかない話ではありません。制度上の類型として経済的虐待があります
  • 定義は「養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること」
  • ⚠️ 介護をしていないきょうだいでも対象。国マニュアルは「高齢者の親族であれば、養護者に該当しない者も、虐待の主体となります」と明記しています
  • 養護者の範囲も広く、「金銭の管理」が世話の例の筆頭。同居していなくても該当し得ます
  • ⚠️ **決めつけないでください。**介護費用として正当に使われていること、認知症の物盗られ妄想であることもあります
  • ⚠️ **通帳を無断で持ち出さない。**立場が入れ替われば、あなたが疑われます
  • 相談先は市区町村と地域包括支援センター。「虐待」と言う必要はなく「お金の管理で心配がある」で通じます
  • 何が不当かを判断するのは家族ではなく行政。証拠を揃えきる必要はありません
  • 家族が申し立てられなくても、市町村長申立てで行政から後見開始を申し立てられます
  • 家族信託は判断能力があるうちだけ。揉めそうなら、親が元気なうちに決めておくのがいちばん安全です
  • 亡くなったあとの清算は相続の枠組み。生きているうちにできることとは別物です