「役立たず」「早く帰れ」「お前が盗んだんだろう」。毎日ごはんを作って、薬を管理して、通院に付き添っている——その自分にだけ、いちばんひどい言葉が向く。

そしてデイサービスの職員には、**「いつも穏やかでニコニコされてますよ」**と言われる。

なぜ、私にだけ。

結論からいうと、**それは家族だからです。**国立長寿医療研究センターは、心許せる家族のもとでは緊張をといて自分の不安感といら立ちをぶつけることもあるとし、つまりは、家族を頼りにしている証拠だと述べています。

慰めのように聞こえるかもしれませんが、これは仕組みの話です。そして知っておくべきことがもうひとつ。暴言や暴力は、いつまでも続くわけではありません。

なぜ、外ではニコニコしているのですか?

国立長寿医療研究センターは、こう説明しています。

認知症の人は、これまで出来たことができなくなったり、以前のことを覚えていないことを周りから指摘されて、不安で心細い状態にあるのです。こんな時は、特によその人には弱みをみせたくないもので、これは認知症の人に限らず、我々人間みなそうであるといえます。

そして、こう続きます。

しかし、いつまでも虚勢をはっていることはできません。心許せる家族のもとでは緊張をといて自分の不安感といら立ちをぶつけることもあるのです。つまりは、家族を頼りにしている証拠ですね。

**デイでニコニコしているのは、無理をしているからです。**外で張りつめた緊張が、家に帰って切れる。そのぶつけ先が、いちばん近くにいる人になります。

同センターは、こうも書いています。

こんな気持ちのあやは、自分にふりかえってみると、仕事がうまくいかなくて疲れた時などとよく似ています。

職場では笑顔でいて、家で家族に当たってしまう。認知症になったから起きることではなく、人間がもともとやっていることだ、という指摘です。

このように、認知症だからと言って心理状態がまったく変わってしまうわけではないのです。(中略)できるだけ自分のこととして気持ちを想像してみてあげてください。そうすれば、暴言で傷つく程度も少しは軽くなるでしょう。

**「私が嫌われている」ではありません。**理不尽さは消えませんが、受け取り方は少し変えられます。

なぜ急に怒りっぽくなったのですか?

同センターは、原因を大きく二つ挙げています。

① 脳の障害そのもの

血管性認知症では感情変化が激しく、歯止めが利きにくい状態になる人もいます。感情失禁といいます。アルツハイマー型認知症なども初期には気分が不安定な状態になります。

感情のブレーキが効きにくくなっている状態です。本人の意思ではありません。

② 不安

物忘れが進んでいることや、いままで出来ていたことができなくなることへの強い不安があります。たとえ、物忘れの自覚がないように見えても、本人の心の底には漠然とした不安感が宿っているのです。そこから、「周りの人間が自分のことを悪くいっている」といった思い込みになり、逆に攻撃的になることもあります。

これは受診拒否や物盗られ妄想と同じ根っこです。分からなくなっていく不安が、攻撃に形を変えることがあります。

対処について、同センターはこう述べています。

対処方法としては、本人の心理を理解してペースを守ってあげることなどをまず優先させ、それでもだめなら薬物療法をおこないます。

**薬より先に、ペースを守ること。**この順序が示されています。

「便秘が原因だった」ということがあります

見落とされやすい、しかし実務的にいちばん役に立つ指摘です。同センターは、暴言への対応をこう説明しています。

まず、本人の言葉に耳を傾けましょう。まわりの様子をよく理解できず不安になって、逆に攻撃的になることもあります。「物を盗まれた」など本当でないことを信じている(妄想といいます)こともあります。**案外、便秘などの体調不良が原因のこともあります。**原因が分かればそれを除くことを考えます。

言葉の内容と戦う前に、体を確認してください。

  • 便秘していないか(何日出ていないか)
  • 痛みはないか(腰、膝、歯、床ずれ)
  • 発熱・脱水はないか
  • かゆみ、尿路の不調はないか
  • 薬が変わっていないか

本人は「痛い」「気持ち悪い」とうまく言えません。言えない不快が、怒りとして出てくることがあります。ここが解決すると、嘘のように収まることがあります。

そのうえで、環境の工夫が挙げられています。

さらに、好きな音楽をきかせる、ゆっくりとした調子で話しかけるなど、本人を安心させられる環境をつくります。

**早口でたたみかけない。**これだけでも変わることがあります。認知症の親への接し方もあわせてどうぞ。

言い返さない、が難しいときは

正論は通りません。それでも、次の3つは覚えておく価値があります。

場面してしまいがち代わりに
暴言が始まった反論する・訂正するその場を離れる(水を飲む、洗濯物を取りに行く)
何度も同じ非難「さっきも言ったでしょ」短く受ける「そうなんですね」
手が出そうな空気押さえつける距離をとる・他の家族に代わる

同センターは、探し物で怒り出した場合について他の家族に代わってもらうことも有用としています。あなたが対応をやめることは、逃げではなく手段です。

暴言や暴力は、いつまでも続くわけではありません

ここは、知らないと絶望します。同センターは、はっきり書いています。

現在、暴言や暴力があってもいつまでも続くわけではありません。認知症の精神症状・行動異常は変化していくものです。どのくらい続くかは、ひとそれぞれで一概には言えませんが。 暴言・暴力を起こす原因は多様ですが、治療可能な場合も多いです。

**今が永久に続くわけではない。**期間は人それぞれで約束はできませんが、変化していくものだと専門機関が述べています。

限界のとき——認知症治療病棟という選択肢

「施設に断られた」という現実に、同センターは正面から答えています。

精神科病院の中には「認知症治療病棟」を併設しているところがあります。病院のホームページなどで調べることができます。電話などであらかじめ問い合わせてみたらどうでしょうか。

そして、期間についても正直に書かれています。

長期入院を希望されていますが、入院期間は60日程度が限度であることが多いと思われます。状態にもよりますが、自宅での介護が可能になることもあるのであきらめないでください。

つまり、**ずっと預かってもらう場所ではありません。症状が落ち着けば、家に戻る前提です。ただしいったん離れることで、家族が息を継げます。**そして本人の症状が治療で変わることもあります。

介護保険を使っている方は、まずケアマネジャーへ。同センターも、介護認定を受けている方はケアマネジャーに相談することをすすめています。ケアマネの選び方・変更、まだ介護保険を使っていなければ地域包括支援センターが入口です。

薬について

同センターは、薬物療法にも触れています。

気分の不安定さを取り除く目的で、「気分安定化薬(バルプロ酸など)」「抗精神病薬(クエチアピンなど)」が良く用いられます。主治医と相談してみてください。

⚠️ **薬の選択・開始・変更・中止はすべて医師が判断します。**ここに書いたのは、主治医に相談する際の手がかりです。自己判断で市販薬を足したり、処方をやめたりしないでください。

ふらつきや翌朝起きられないなどの変化が出たときの考え方は、昼夜逆転と夜間不穏にまとめています。

手を上げそうになったら

暴言を浴び続けると、こちらが加害者になりかけます。「気づいたら怒鳴り返していた」「一瞬、手が出そうになった」——これは、あなたが冷たいからではありません。限界のサインです。

厚生労働省は高齢者虐待防止の相談窓口を案内しています。通報して罰するための窓口ではなく、養護者(介護している家族)を支援するための窓口でもあります。市区町村や地域包括支援センターが相談先です。

「まだそこまでじゃない」と思ううちに相談してください。そこまで行ってからでは、失うものが大きすぎます。

介護疲れ・介護うつもあわせて読んでみてください。

在宅の限界を感じたら

暴言・暴力は、在宅介護でもっとも家族が疲弊する症状のひとつです。体力ではなく、心が削られます。

施設では、職員が交代で関わります。24時間ひとりが受け止め続ける必要がありません。そして専門職は、家族という関係の外側から接することができます。デイでニコニコしていられるのと同じ理屈で、距離のある相手のほうが、本人も穏やかでいられることがあります。

認知症の方の住まいとしては、少人数で家庭的な環境のグループホームが代表的な選択肢です。認知症の方向け施設一覧から、お住まいの地域の施設を確認できます。進め方は認知症の親の施設選び、本人が嫌がる場合は親が施設を嫌がるときを参考にしてください。

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出典・参考

  • 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症の人と上手に向き合うために」対応に困る言動との向き合いかた(暴言・暴力の項:怒りっぽさの原因=①脳の障害の反映=血管性認知症では感情変化が激しく歯止めが利きにくい「感情失禁」・アルツハイマー型認知症も初期には気分が不安定 ②物忘れの進行やできなくなることへの強い不安・自覚がないように見えても心の底に漠然とした不安感・「周りの人間が自分のことを悪くいっている」という思い込みから攻撃的になることもある/対処=本人の心理を理解してペースを守ることをまず優先し、それでもだめなら薬物療法(気分安定化薬〔バルプロ酸など〕・抗精神病薬〔クエチアピンなど〕)を主治医と相談。暴言への対応=まず本人の言葉に耳を傾ける・妄想のこともある・案外、便秘などの体調不良が原因のこともある・原因が分かればそれを除く・好きな音楽・ゆっくりとした調子で話しかけるなど安心できる環境をつくる。暴言や暴力はいつまでも続くわけではなく認知症の精神症状・行動異常は変化していくもの・原因は多様だが治療可能な場合も多い/精神科病院に併設の「認知症治療病棟」・病院のHPで調べ電話で問い合わせる・入院期間は60日程度が限度であることが多い・自宅での介護が可能になることもあるのであきらめないでほしい・介護認定を受けている方はケアマネジャーに相談を。デイではニコニコ・家では暴言=よその人には弱みをみせたくないが虚勢は続かず、心許せる家族のもとで緊張をといて不安感といら立ちをぶつける=家族を頼りにしている証拠・仕事で疲れた時と似た気持ちのあや・自分のこととして想像すれば傷つく程度も少しは軽くなる):https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/face.html
  • 厚生労働省「高齢者虐待防止」(高齢者虐待の防止・養護者(介護する家族)に対する支援に関する情報と相談窓口):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/boushi/index.html
  • 厚生労働省「認知症施策」(認知症の理解と地域で支える取り組み・相談先):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html

まとめ

  • デイでニコニコ・家では暴言は、よその人に弱みを見せまいと張った緊張が家で切れるため。家族を頼りにしている証拠だと説明されている
  • 怒りっぽさの原因は①感情失禁(脳の障害)②できなくなることへの不安。性格が変わったのではない
  • 薬より先に「ペースを守る」——専門機関が示す順序
  • 案外、便秘などの体調不良が原因のことがある。言葉と戦う前に、便秘・痛み・発熱・脱水・薬の変更を確認する
  • 早口でたたみかけない。好きな音楽・ゆっくりした口調で安心できる環境を
  • 暴言が始まったらその場を離れる。他の家族に代わってもらうのも有効な手段
  • **暴言や暴力はいつまでも続くわけではない。**症状は変化し、治療可能な場合も多いとされている
  • 限界なら精神科病院併設の「認知症治療病棟」という選択肢がある。ただし入院は60日程度が限度であることが多い
  • **手を上げそうになったら、それは限界のサイン。**高齢者虐待防止の窓口は、介護する家族を支える窓口でもある
  • 心が削られる前に、認知症の方向け施設一覧から次の選択肢を確認できます