深夜1時、物音で目が覚める。親が電気をつけて家じゅうを歩いている。「もう朝でしょう」と言って着替えはじめる。止めると怒る。そしてまた、自分の眠れない夜が始まる。
介護でいちばん家族を削るのは、たぶん夜です。日中の世話は人に頼めても、夜は代わってくれる人がいません。
結論からいうと、「加齢だから仕方ない」で終わらせなくていい問題です。国立長寿医療研究センターは、昼夜逆転の原因として加齢のほかに薬物の影響・眠りにくい環境の変化・運動不足を挙げています。この3つには、手を入れられる余地があります。
そしてもうひとつ。「早寝して深夜に起きる」は、不眠とは限りません。
昼夜逆転とは何ですか?
国立長寿医療研究センターは、こう説明しています。
認知症に限らず、高齢者の方は睡眠が浅く、時間も短くなる傾向があります。 さらに、「起きて活動する。睡眠をとって休息する」という1日の体内リズムが狂いやすく、本来活動的であるべき昼間にうとうとしたり、夜間に眠れなくなりがちです。認知症ではさらにその傾向がつよくなります。このような状態を「昼夜逆転」といいます。
ポイントは、認知症に限らず起きるという点です。年齢とともに眠りは浅く短くなり、体内リズムが狂いやすくなる。認知症は、それを強める方向に働きます。
つまり本人は、わざと起きているのでも、嫌がらせをしているのでもありません。
原因は3つ、と言われています
同センターは、加齢以外の原因をこう挙げています。
「昼夜逆転」の原因としては、加齢のほかに
- 薬物の影響
- 眠りにくい環境の変化
- 運動不足 等が考えられます。
そして対応をこう示しています。
服用している薬剤を見直すほか、昼間の居眠りや運動不足が原因になっていることもあるので、日中は体を動かすようにするといいでしょう。それでも不眠が続くようであれば、医師に相談する必要があります。
**最初に来ているのが「薬剤の見直し」**である点は、覚えておく価値があります。夜眠れない原因が、昼に飲んでいる薬にあることがある、ということです。
① 薬を疑ってみる
高齢になると薬は増えます。お薬手帳を持って、かかりつけ医か薬剤師に「夜眠れないのですが、この中に関係しそうなものはありますか」と聞いてみてください。
自己判断で中止しないでください。やめ方にも順番があります。
② 環境の変化を疑ってみる
- 入院・退院・引っ越し・部屋の模様替えの直後ではないか
- 夜、寒すぎたり暑すぎたりしないか
- 明るすぎる/暗すぎる(真っ暗だと不安が強まることがあります)
- 音(時計の音、家族のテレビ、外の物音)
- トイレが遠い・行きにくい
環境は、いちばん安く変えられる要素です。
③ 日中の過ごし方を変える
- 午前中に日光を浴びる(体内リズムに効くといわれます)
- 昼寝は短く(長い昼寝は夜の眠りを浅くします)
- 体を動かす(散歩、家事の役割、デイサービス)
デイサービスは、日光・活動・人との関わりをまとめて確保できる手段でもあります。デイサービスとデイケアの違い、認知症対応型通所介護もあわせてどうぞ。
「早寝して深夜に起きる」は不眠ではない
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。国立長寿医療研究センターは、こう述べています。
早く寝て深夜起きるのは「不眠」ではなく生活時間が、他の人とずれているだけです。 深夜起きても、無害なら 薬をやめ元通りにする。
眠れていないのではなく、眠る時間帯がずれているだけ、という見方です。夜7時に寝れば、深夜2時に起きるのは自然なことです。7時間眠っています。
そして同センターは、押さえ込むのではなく時間割をずらす方法を示しています。
入浴時間を就寝前にする、夕食を8時以降にするなど時相をずらした生活に変えてみて下さい。 興味のあることを、夜すすめる。
つまり、寝る時刻を後ろにずらす。夕食を遅らせ、入浴を寝る直前に持ってきて、本人が好きなことを夜に配置する。
「早く寝かせて楽になりたい」と考えがちですが、早く寝かせるほど、早く起きてきます。
深夜に起きても「無害なら」
無害かどうかの線引きは、たとえばこうです。
- 無害に近い——起きてテレビを見ている、お茶を飲んでいる、また寝る
- 対応が要る——外に出ようとする、火を使う、転倒しそう、大声で近所に響く
前者なら、放っておく勇気も選択肢です。家族が起きて対応するほど、本人も目が冴えます。
外に出てしまうリスクがあるなら、「家に帰る」と言って出ていくに備えをまとめています。
睡眠薬を使うときに知っておくこと
それでも眠れない場合、薬という選択肢はあります。同センターは、睡眠時間が5時間未満の場合に、短時間型の睡眠薬や漢方薬、メラトニン製剤の処方について医師に相談するよう示しています。
ただし、副作用のほうが問題になることがあります。
同センターは、落ち着かせる薬でふらつく場合の対応を、はっきり書いています。
飲むのを中止して、処方した医師に状態をしっかり伝えてください。 それでも処方して飲むように指示された場合は、別のお医者さんに変えるほうが無難です。
そして、次のようにも続きます。
別の薬を処方された場合は、一日試して同じ症状が出たら中止し、伝えてください。 さらに薬を変更された場合は、効能書きで副作用のチェックをします。同じ症状の副作用の可能性があれば別のお医者さんに変えるほうが無難です。 お薬以外の対処方法をしっかり聞きましょう。家族の対処方法、音楽、散歩や医療以外のサービス(認知症短期集中リハビリテーションやデイサービス)利用も有効なことがあります。
**「ふらつく」を軽く見ないでください。**高齢の方にとって、転倒は骨折から寝たきりにつながることがあります。夜中にトイレへ立つときが、いちばん危ない時間帯です。
⚠️ **薬の開始・変更・中止の判断は医師が行います。**ここに書いたのは「気づいたことを医師に伝える」ための材料です。
急に始まった夜間の混乱は、別の話です
ゆっくり進む昼夜逆転と、ある日突然始まった夜間の混乱は分けて考えてください。
- 数日のうちに急に始まった
- 入院・手術・引っ越しの直後である
- 夕方から夜にかけて特にひどい
- 発熱・脱水・便秘・痛みのあとに始まった
こうした場合、せん妄や身体の不調が背景にあることがあります。原因が取り除かれると落ち着いていくことが多いとされ、認知症の進行とは別のものとして扱われます。医師に相談してください。
夕方から落ち着かなくなる場合は、帰宅願望・夕暮れ症候群も関係します。
家族が先に倒れないために
夜間の介護でいちばん深刻なのは、介護者が眠れないことです。睡眠不足は判断力を奪い、優しくいられなくなり、そして体を壊します。
- 交代する——同居家族と曜日で分ける。ひとりで毎晩は無理です
- ショートステイを使う——数日でも連続して眠れる夜を作る。ショートステイとは
- ケアマネジャーに「夜が限界です」と言う——言わないとプランに反映されません
- 自分の睡眠を優先する日をつくる
「親が眠れないのに自分だけ寝るなんて」と思う必要はありません。あなたが倒れたら、介護そのものが止まります。
介護疲れ・介護うつにも書いたとおり、まじめな人ほど限界まで言い出せません。
在宅の限界を感じたら
昼夜逆転は、在宅介護がもっとも続けにくくなる症状のひとつです。日中の世話は工夫でしのげても、毎晩眠れない生活は長く続きません。
施設では職員が交代で夜勤に入ります。24時間ひとりの家族が見続ける必要がありません。これは根性の差ではなく、体制の差です。
認知症の方の住まいとしては、少人数で家庭的な環境のグループホームが代表的な選択肢です。認知症の方向け施設一覧から、お住まいの地域の施設を確認できます。施設選びの考え方は認知症の親の施設選び、本人が嫌がる場合は親が施設を嫌がるときを参考にしてください。
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- ショートステイとは——連続して眠れる夜をつくる
- 介護疲れ・介護うつ——限界の前に休む方法
出典・参考
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症の人と上手に向き合うために」対応に困る言動との向き合いかた(睡眠障害の項:認知症に限らず高齢者は睡眠が浅く時間も短くなる傾向/「起きて活動する・睡眠をとって休息する」という1日の体内リズムが狂いやすく昼間にうとうとし夜間に眠れなくなりがちで認知症ではさらにその傾向が強まる=これを「昼夜逆転」という/原因は加齢のほかに「薬物の影響」「眠りにくい環境の変化」「運動不足」/対応=服用している薬剤を見直すほか、昼間の居眠りや運動不足が原因のこともあるので日中は体を動かす・それでも不眠が続くなら医師に相談する必要がある。接し方=短く簡潔な表現・一度に多くの指示をしない・訂正や否定でなく肯定的な表現・目を見る/微笑む/相槌などの非言語的コミュニケーション):https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/face.html
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症の人と上手に向き合うために」よくある質問(早く寝て深夜起きるのは「不眠」ではなく生活時間が他の人とずれているだけ/深夜起きても無害なら薬をやめ元通りにする/入浴時間を就寝前にする・夕食を8時以降にするなど時相をずらした生活に変えてみる/興味のあることを夜すすめる/睡眠時間が5時間未満の場合は短時間型睡眠薬や抑肝散、メラトニン製剤の処方について医師に相談。薬でふらつく場合は飲むのを中止して処方した医師に状態を伝える・それでも同じ指示なら別の医師に変えるほうが無難・別の薬は一日試して同じ症状が出たら中止して伝える・効能書きで副作用を確認/薬以外の対処方法をしっかり聞く=家族の対処方法・音楽・散歩・認知症短期集中リハビリテーションやデイサービスの利用も有効なことがある):https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/answer.html
- 厚生労働省「認知症施策」(認知症の理解と地域で支える取り組み・相談先):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
まとめ
- 昼夜逆転は認知症に限らず起きる。体内リズムが狂いやすくなり、認知症がそれを強める
- 原因は加齢のほかに薬物の影響・眠りにくい環境の変化・運動不足の3つ。この3つには手を入れられる
- 最初に疑うのは薬。お薬手帳を持って医師・薬剤師に相談する(自己判断で中止しない)
- 「早寝して深夜に起きる」は不眠ではなく、時間帯のズレ。早く寝かせるほど早く起きる
- 押さえ込むより時間割をずらす——夕食を遅く、入浴を就寝前に、好きなことを夜に
- 深夜に起きても無害なら放っておく選択肢がある。危険(外出・火・転倒)があるときだけ動く
- 睡眠薬のふらつきは軽く見ない。中止して医師に伝える。転倒は骨折・寝たきりにつながる
- 急に始まった夜間の混乱は別物。せん妄や身体の不調の可能性があり、医師に相談する
- 家族が眠れないことがいちばん深刻。ショートステイなどで連続して眠れる夜をつくる
- 毎晩は続きません。認知症の方向け施設一覧から次の選択肢を確認できます