ふと見ると、親がティッシュを口に入れている。花瓶の造花をかじっている。石けんを手に持って、食べようとしている。慌てて取り上げると、怒る。
そして目が離せなくなり、家族は家の中でも気が抜けなくなります。
結論からいうと、**「認知症が進んだから」で片づけないでください。**国立長寿医療研究センターは、異食について認知症が重度になった時に生じることがあるとしたうえで、鉄欠乏やカルシウム欠乏などのミネラル不足、アルコール依存症、脳腫瘍、心理・環境因子といった別の原因も挙げています。
そして対応の要点は、取り上げることではなく、置き換えることです。
異食とは何ですか?
国立長寿医療研究センターは、こう説明しています。
食べ物でないものを口に入れる、食べようとすることを「異食」といいます。認知症が重度になった時に生じることがありますが、それ以外の原因もあります。
「それ以外の原因もあります」——ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
認知症以外の原因が挙げられています
同センターが挙げている原因は、次のとおりです。
- 鉄欠乏、カルシウム欠乏など体のミネラルが不足しているとき
- アルコール依存症
- 脳腫瘍
- 虐待や介護に対して拒否的であるなどの心理・環境因子
① ミネラル不足
鉄やカルシウムの不足が挙げられています。これは、血液検査で確認できる可能性があるという意味でもあります。
「食べ物でないものを口にする」という行動に、栄養状態が関わっていることがある。これは知らないと、まず疑いません。次の受診のときに、「異食があります」と医師に伝えてください。
② アルコール依存症
飲酒の状況が関係していることがあります。家族としては言い出しにくい話ですが、医師には正確に伝えてください。
③ 脳腫瘍
急に始まった場合は特に注意が要ります。認知症の緩やかな進行とは違う変化があるなら、受診を急いでください。
④ 心理・環境因子
同センターは「虐待や介護に対して拒否的であるなどの心理・環境因子」を挙げています。
これは、**家族を責めるための項目ではありません。**ただ、本人が不安な状態に置かれていないか、関わり方が本人にとってつらくなっていないか、という視点があるということです。
対応の順序
同センターは、原因への対応をこう示しています。
対応としては、上記のような原因が考えられれば環境調整、医療機関にかかるなどを行いますが、それでもうまくいかないときは以下のような方法もあります。
- 口にするものが特定されていれば、見えないところに置く。手の届かないところに置く
- 代用品(たとえばよく似た色や形の害のない食物など)を手にしやすい場所におく
**まず原因を探す。次に環境を変える。**この順序です。
危険なものから片づける
すべてを片づけるのは不可能です。優先順位をつけてください。
| 優先度 | もの |
|---|---|
| 最優先 | 薬、洗剤・漂白剤、乾電池(特にボタン電池)、たばこ、殺虫剤 |
| 高 | 鋭利なもの、小さくて飲み込めるもの、乾燥剤、保冷剤 |
| 中 | 造花、石けん、スポンジ、ティッシュ |
ボタン電池は特に危険とされています。リモコンや体温計、補聴器のものも含めて、予備も含めて手の届かない場所へ。
「取り上げる」より「置き換える」
ここが実務的にいちばん効きます。同センターの言う代用品の考え方です。
- ティッシュを口に入れるなら → オブラートやボーロなど、似た感触で害のないものを近くに置く
- 何かを手に持って口へ運ぶ動作が続くなら → 一口サイズのお菓子を小皿に用意しておく
- 造花をかじるなら → 造花を下げて、食べられるものをその場所に置く
**行動そのものを止めるのではなく、行き先を安全なほうへ変える。**取り上げ続けると本人は探しはじめ、かえって目が離せなくなります。
⚠️ 代用品を選ぶときは、のどに詰まりにくいものにしてください。飲み込む力は人それぞれです。迷う場合はケアマネジャーや医師、歯科・言語聴覚士に相談してください。
飲み込んでしまったときは
**のどに詰まって息ができない、意識がおかしい、ぐったりしている——このときは、ためらわず119番です。**窒息は分単位で命に関わります。
呼吸ができていて落ち着いている場合も、次の手順で動いてください。
- 何を、どれくらい口にしたかを確認する
- 残っていれば取っておく(同じものがあれば、それも)
- かかりつけ医や医療機関に連絡して指示を受ける
- ⚠️ 自己判断で吐かせない(かえって危険になるものがあります)
薬・洗剤・乾電池・たばこは特に危険です。**「何を口にしたか分からない」場合も、そのまま伝えてください。**処置の判断は医師が行います。
なぜ、口に入れるのでしょうか
理由はひとつではありません。
- 食べ物かどうか見分けがつかない(色や形が似ている)
- 空腹(食事の量が足りていない、食べたことを忘れている)
- 口さみしさ・手持ちぶさた(することがない時間が長い)
- 不安(落ち着かない気持ちが口に向かう)
日中に手を使う時間があると減ることがあります。洗濯物をたたむ、豆を選る、といった役割でも構いません。デイサービスは、この時間をまとめて確保できる手段でもあります。デイサービスとデイケアの違い、認知症対応型通所介護もどうぞ。
食事の量や回数が合っているかは、介護食の宅配も含めて見直す余地があります。
叱らないでください
見つけたときに強く叱ると、隠れて口に入れるようになることがあります。そうなると、発見が遅れます。
- 静かに「これはお茶にしましょうか」と別のものに替える
- 取り上げるときも黙って奪わない
- 何を口にしたかを記録しておく(受診時の情報になります)
認知症の親への接し方の基本と同じで、否定から入らないことが結局は早道です。
家族だけで抱えないために
異食は、目を離せないという点で家族の負担がとても重い症状です。24時間の見守りは、ひとりでは続きません。
- ケアマネジャーに具体的に伝える——「異食があるので目が離せない」と言わないとプランに反映されません
- 地域包括支援センター——まだ介護保険を使っていなければここが入口です。地域包括支援センターとは
- 主治医——ミネラル不足など、検査で分かる原因があるかもしれません
- ショートステイ——見守りを交代する時間をつくる。ショートステイとは
在宅の限界を感じたら
異食があると、家の中を安全にし続けるという終わりのない作業が発生します。片づけても、本人は別のものを見つけます。
施設では、もともと危険物が手の届く場所にない環境が用意され、職員が交代で見守ります。これは家族の努力では代替しにくい部分です。
認知症の方の住まいとしては、少人数で家庭的な環境のグループホームが代表的な選択肢です。認知症の方向け施設一覧から、お住まいの地域の施設を確認できます。進め方は認知症の親の施設選び、本人が嫌がる場合は親が施設を嫌がるときを参考にしてください。
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出典・参考
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症の人と上手に向き合うために」対応に困る言動との向き合いかた(異食の項:食べ物でないものを口に入れる・食べようとすることを「異食」という/認知症が重度になった時に生じることがあるがそれ以外の原因もある=①鉄欠乏、カルシウム欠乏など体のミネラルが不足しているとき ②アルコール依存症 ③脳腫瘍 ④虐待や介護に対して拒否的であるなどの心理・環境因子/対応=原因が考えられれば環境調整・医療機関にかかるなどを行う、それでもうまくいかないときは 口にするものが特定されていれば見えないところ・手の届かないところに置く/代用品(たとえばよく似た色や形の害のない食物など)を手にしやすい場所におく):https://www.ncgg.go.jp/dementia/with/face.html
- 厚生労働省「認知症施策」(認知症の理解と地域で支える取り組み・相談先):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
- 厚生労働省「地域包括支援センター」(高齢者の総合相談窓口としての役割と設置):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
まとめ
- 異食は認知症が重度のときに生じることがあるが、それ以外の原因も挙げられている——鉄・カルシウムなどのミネラル不足、アルコール依存症、脳腫瘍、心理・環境因子
- 「認知症が進んだから」で片づけず、次の受診で「異食があります」と医師に伝える。検査で分かる原因があるかもしれない
- 対応の順序は①原因を探す ②環境を変える
- 片づけは優先順位を——薬・洗剤・乾電池(特にボタン電池)・たばこ・殺虫剤から
- 取り上げるより置き換える。「よく似た色や形の害のない食物」を手に取りやすい場所に置く
- ⚠️ 代用品はのどに詰まりにくいものを。迷ったら医師やケアマネジャーに相談
- **飲み込んで息ができない・意識がおかしいときは119番。**落ち着いていても医療機関へ連絡し、自己判断で吐かせない
- 叱ると隠れて行うようになり、発見が遅れる
- 24時間の見守りはひとりでは続きません。認知症の方向け施設一覧から次の選択肢を確認できます