「こんなこと言ったら、感じが悪いと思われないかな」。訪問のあと、玄関を閉めてから、言えなかったことを思い出す。忙しそうだったから。無料でやってもらっているから。親が世話になっているから。そうやって飲み込んだ言葉が、少しずつたまっていく。

結論からいうと、あなたが「言いにくい」と感じていることの多くは、国の基準にケアマネジャーの仕事として書かれています。希望を聞くこと、ほかの事業所を紹介すること、月に一度訪ねてくること、苦情に対応すること。どれも好意ではなく義務です。遠慮して黙っていると、合っていないケアプランのまま時間だけが過ぎます。この記事では、どこまで言っていいのかを条文で確かめ、そのうえで伝わる言い方と、それでも変わらないときの相談先を順番に整理します。

なぜ、ケアマネジャーに本音を言いにくくなるのですか?

理由はだいたい三つに分かれます。

一つめは「無料でやってもらっている」という負い目です。居宅介護支援(ケアプランの作成)は、現在のところ利用者の自己負担がありません。ただしこれは厚意ではなく、介護保険の給付として費用が支払われている仕組みです。無料だから遠慮する、という関係ではありません。

二つめは「忙しそうだから」。実際に多くの利用者を担当しているのは事実です。しかし、あとで説明するとおり、月に一度の訪問面接は制度上の義務として組まれた時間です。相談のために設けられた場を使うことは、邪魔をすることではありません。

三つめは「文句を言ったら、親が困ることになるのでは」という不安です。これがいちばん重い。けれど、基準は正反対のことを求めています。指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)の第1条の2第3項は、利用者の意思及び人格を尊重し、常に利用者の立場に立って行われなければならないと定めています。言った人が不利になるという前提そのものが、制度の想定と食い違っています。

そして何より、言わないとケアプランが作れません。同じ基準の第13条第8号は、居宅サービス計画の原案について、利用者及びその家族の生活に対する意向を記載したものを作成しなければならないと定めています。意向は、聞かれて答えるものであり、あなたの中にあるうちは存在しないのと同じです。

どこまで言っていいのですか?

「言っていいこと」の線引きは、感覚ではなく条文で確かめられます。よくある言いにくい場面と、その根拠を並べます。

言いにくいこと制度上の根拠
ほかの事業所も見てみたい第4条第2項=利用者は複数の指定居宅サービス事業者等を紹介するよう求めることができることを、あらかじめ説明する義務
この事業所ばかり勧められている気がする第1条の2第3項=特定の事業者に不当に偏することのないよう、公正中立に/第25条第2項=特定の事業者のサービスを利用すべき旨の指示等を行ってはならない/第25条第3項=見返りに金品その他の財産上の利益を収受してはならない
説明が難しくて分からない第13条第2号=懇切丁寧に行うことを旨とし、理解しやすいように説明を行う
事業所の料金や内容を知りたい第13条第5号=利用者によるサービスの選択に資するよう、サービスの内容、利用料等の情報を適正に提供する
月に一度も来てくれない第13条第14号=特段の事情がない限り少なくとも一月に一回、利用者に面接し、居宅を訪問して行う
不満がある、納得できない第26条第1項=苦情に迅速かつ適切に対応しなければならない/第2項=苦情の内容等を記録しなければならない

補足として、第4条第3項は、その事業所が直近6か月に作ったケアプランのうち訪問介護・通所介護・福祉用具貸与・地域密着型通所介護が占める割合や、それらが同一の事業者によって提供された割合を説明するよう努めなければならないとも定めています。「特定の事業者に偏っていないか」は、数字で聞いていいということです。

もう一つ、第13条第7号は、課題の把握(アセスメント)にあたって利用者の居宅を訪問し、利用者及びその家族に面接して行わなければならないとしています。家族はプランの外にいる人ではなく、面接の相手として最初から書かれています。

実際、何を、どう言えばいいのですか?

条文を知っても、その場で言葉が出てこないのが本当のところです。コツは一つで、気持ちではなく事実と数字で言うこと。気持ちは受け止めてもらって終わりますが、事実は動かせる条件になります。

伝わりにくい言い方伝わる言い方
もう限界です夜中に2回起こされる日が、週に4日続いています。翌日の仕事に支障が出ています
デイサービスを嫌がっていて…迎えの30分前から玄関で座り込みます。送迎を午後に変えるか、ほかの事業所を見ることはできますか
お金がきびしくて…今の自己負担が月◯円で、年金◯円から出すと生活費が残りません。同じ目的で負担の軽い組み合わせはありますか
ヘルパーさんが合わないみたいで調理の手順が毎回違って、母が混乱して怒ってしまいます。事業所に手順を揃えるよう伝えてもらえますか
なんとかなりませんか入浴だけ回数を増やしたいです。ほかを減らしてでも構いません

補足すると、コツはさらに三つあります。

  1. 人ではなく事象を言う。「あのヘルパーさんが嫌」ではなく「この手順が揃っていない」。担当者は事業所に伝えやすくなります。
  2. 「どうしたらいいですか」ではなく「こうしたい」。判断を丸ごと預けると、無難な現状維持になりがちです。
  3. 記録を持っていく。起きた時刻、回数、かかった時間を数日メモするだけで、話の説得力がまったく変わります。要介護認定の場面でも同じことが起きます(認定調査で「困っていること」を正しく伝えるコツ)。

言ったあと、気まずくなりませんか?

気まずさを減らす方法があります。予告することです。訪問の前に「次のときに相談したいことがあります」と一言入れておくと、相手も時間の配分を変えられますし、あなたも「切り出す」必要がなくなります。

もう一つ知っておくと気が楽になるのは、不満を伝えると記録が残るという点です。基準の第26条第2項は、苦情を受け付けた場合にその内容等を記録しなければならないと定めています。これは「告げ口が残る」という意味ではなく、言ったことがなかったことにならないという意味です。

そして、月に一度の訪問面接(第13条第14号)は、そもそもプランが今の状態に合っているかを確かめるための時間です。相談は、その場の本来の目的そのものです。

それでも変わらないときは、どこに言えますか?

順番に上げていきます。いきなり最後までいく必要はありません。

  1. 担当ケアマネジャー本人。まずここです。伝わっていないだけのことが実際に多くあります。
  2. 居宅介護支援事業所の管理者。担当者に直接言いにくい内容は、事業所の窓口へ。第26条第1項の「迅速かつ適切に対応しなければならない」義務は、担当者個人ではなく事業者に課せられています。
  3. 地域包括支援センター。介護保険法第115条の46に基づく市町村の総合相談の窓口です。第三者として間に入ってもらえます(地域包括支援センターとは)。
  4. 市町村の介護保険担当課。第26条第3項は、利用者からの苦情に関して市町村が行う調査に協力し、市町村から指導または助言を受けた場合は、それに従って必要な改善を行わなければならないと定めています。第4項では、市町村から求められれば改善内容を報告する義務もあります。
  5. 国民健康保険団体連合会(国保連)。介護保険法第176条第1項第3号は、サービスの質の向上に関する調査と、事業者に対する必要な指導・助言を国保連の業務としています。しかも基準の第26条第5項は、ケアプランに位置づけたサービスへの苦情の申立てについて、事業者自身が利用者に必要な援助を行わなければならないとしています。つまり、申立ての仕方が分からなければ、ケアマネジャーに聞いていいのです。

⚠️ 窓口の名称、受付の方法(電話・来庁・書式)は自治体によって違います。実際に相談するときは、お住まいの市区町村の介護保険担当課か地域包括支援センターで確認してください。

担当を替えたいと思ったら

伝え方を変えても合わないことはあります。ケアマネジャーは変更できますし、理由を細かく説明する義務もありません。手順や、気まずくならない切り出し方はケアマネジャーの選び方と変更の方法にまとめています。契約そのものに不安があるときは介護の契約でもめないためにも合わせて読んでみてください。

在宅の限界を感じたら

言えるようになっても、変わらないことがあります。在宅で組めるサービスには上限があるからです。要介護度ごとの支給限度額を超えた分は全額自己負担になり、そこから先は「伝え方」では解決しません(支給限度額を超えたらどうなる)。

夜間の見守り、毎日の排泄や入浴、目を離せない時間——これらを在宅で埋めようとすると、費用も家族の体力も先に尽きます。施設の場合、援助は家族の気力ではなく運営基準として担保されます。判断の目安は在宅介護のコツと限界の見極め方、罪悪感については施設に入れるのは親不孝?と感じたらへ。すでに消耗しているなら介護疲れ・介護うつを先に読んでください。施設探しはエリア別の施設一覧から始められます。

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出典・参考

  • 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)第1条の2第3項(利用者の意思及び人格を尊重し、常に利用者の立場に立って、特定の種類又は特定の指定居宅サービス事業者等に不当に偏することのないよう、公正中立に行われなければならない)/第4条第2項(利用者は複数の指定居宅サービス事業者等を紹介するよう求めることができること等につき説明を行い、理解を得なければならない)/第4条第3項(前6か月間のケアプランに占める訪問介護等の割合、同一事業者が提供した割合の説明に努める)/第13条第2号(懇切丁寧に行うことを旨とし、理解しやすいように説明を行う)・第5号(サービスの内容、利用料等の情報を適正に提供する)・第7号(アセスメントは利用者の居宅を訪問し、利用者及びその家族に面接して行わなければならない)・第8号(原案に利用者及びその家族の生活に対する意向を記載)・第14号(モニタリングは特段の事情のない限り少なくとも一月に一回、利用者に面接し、居宅を訪問して行う/一定の要件を満たす場合は少なくとも二月に一回の訪問とテレビ電話装置等の活用が可能)/第25条第2項(特定の居宅サービス事業者等によるサービスを利用すべき旨の指示等を行ってはならない)・第3項(対償として金品その他の財産上の利益を収受してはならない)/第26条第1項(苦情に迅速かつ適切に対応しなければならない)・第2項(苦情の内容等を記録)・第3項(市町村の調査への協力と、指導又は助言に従って必要な改善)・第4項(改善内容の市町村への報告)・第5項(国民健康保険団体連合会への苦情の申立てに関して、利用者に対し必要な援助を行わなければならない)・第6項(国保連の調査への協力と指導・助言に従った改善):https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100038
  • 介護保険法(平成9年法律第123号)第115条の46(地域包括支援センター=包括的支援事業等を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行う施設)/第176条第1項第3号(国民健康保険団体連合会の業務=指定居宅サービス・指定居宅介護支援等の質の向上に関する調査並びに事業者に対する必要な指導及び助言)/第23条(市町村は保険給付に関して必要があると認めるときは、文書その他の物件の提出若しくは提示を求め、又は質問若しくは照会をさせることができる):https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
  • 厚生労働省「介護・高齢者福祉」(居宅介護支援・ケアマネジメントの位置づけ):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html

まとめ

言いにくさの正体は、たいてい**「これは頼んでいいことなのか分からない」という迷いです。線引きは条文にあります。希望を聞くこと(第13条第8号)、ほかの事業所を紹介すること(第4条第2項)、分かるように説明すること(第13条第2号)、月に一度訪ねること(第13条第14号)、苦情に対応すること(第26条)——どれもケアマネジャーの側の義務です。そのうえで、伝わる言い方は気持ちではなく事実と数字**。「限界です」より「夜中に2回、週4日」。人ではなく事象を言い、「どうしたら」ではなく「こうしたい」と言う。それでも変わらないなら、担当者→事業所の管理者→地域包括支援センター→市町村→国保連の順に相談先があります。そして、伝え方を尽くしても在宅には上限があります。言えなかったせいで消耗したのではなく、在宅で抱えられる量を超えていただけということも少なくありません。施設探しや介護の悩みは、AIアドバイザーにも気軽にご相談ください(無料・登録不要)。