認定調査の日。ふだんは何度も同じことを聞き返す親が、背筋を伸ばして「はい、できます」「困っていません」と答えている。
話がちがう、と思いながら、本人の前では否定できない。調査員が帰ったあとで、どっと疲れが出る——。
結論からいうと、要介護認定は、その日の一回の受け答えだけで決まる設計にはなっていません。
厚生労働省の認定調査員テキスト2009改訂版は、調査対象者の緊張等により日頃の状況と異なっていると考えられる場合は、より頻回に見られる状況や日頃の状況について聞き取りを行い、一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づいて選択すると定めています。
そして、家族に求められているのは大げさに言うことではありません。介護の手間と、その頻度を、具体的な数で伝えることです。
調査の日だけしっかりするのは、めずらしいことではありません
まず、親を責めないでください。
- 知らない人が来るという非日常で、緊張して気が張る
- 人前では弱みを見せたくないという気持ちが働く
- 短い時間なら保てる(1時間の来客と、24時間の生活は別物)
- できないと認めたくない、あるいは本人にはできているつもりでいる
見栄を張っているように見えても、本人にとっては自分を保つための反応です。その場で「そんなことないでしょう」と正しても、否定された記憶だけが残り、機嫌を損ねて調査そのものが進まなくなることがあります。
**その場で親を訂正する必要はありません。**伝える相手は、親ではなく調査員です。
要介護認定は二段階で決まります
まず、仕組みを知っておくと、どこに何を伝えればよいかが見えます。
要介護認定は、一次判定と二次判定の二段階です。
| 段階 | 誰が | 何をもとに |
|---|---|---|
| 一次判定 | コンピュータ | 認定調査の基本調査74項目と主治医意見書 |
| 二次判定 | 介護認定審査会(保健・医療・福祉の学識経験者) | 一次判定の結果を原案に、特記事項と主治医意見書の内容を加味 |
厚生労働省は、コンピュータによる一次判定は認定調査の結果をもとに、**約3,500人に対し行った「1分間タイムスタディ・データ」**から推計すると説明しています。つまり一次判定は、統計から介護にかかる時間を見積もる計算です。
その計算に乗りきらない事情を審査会に届けるのが、次に説明する「特記事項」です。
認定調査には3種類の調査票があります
厚生労働省の資料では、認定調査を構成する調査票の役割がこう整理されています。
| 調査票 | 役割 |
|---|---|
| 概況調査 | 現在受けているサービスの状況、家族状況、居住環境、日常的に使用する機器・器械の有無など |
| 基本調査(74項目) | 選択結果から一次判定ソフトで要介護認定等基準時間を算出 |
| 特記事項 | 主に基本調査では把握できない、対象者の具体的・固有な状況などを審査会に伝達する |
家族の話がいちばん効くのは、特記事項です。
調査員は「今できたこと」だけで選ぶわけではありません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
認定調査員テキスト2009改訂版には、こう書かれています。
調査時の環境が日頃の環境と異なったり、調査対象者の緊張等により日頃の状況と異なっていると考えられる場合、時間や状況によって、できたり、できなかったりする場合は、より頻回に見られる状況や日頃の状況について聞き取りを行い、一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づいて選択する。また選択をした根拠について具体的な内容を「特記事項」に記載する。
つまり、「今日はできた」で終わらせず、ふだんどうなのかを聞き取って選ぶのが決まりです。認知症の行動・心理症状に関する項目は、さらに長く調査日より概ね過去1か月間の頻度で選ぶとされています。
ただし——聞き取りの材料は、家族が出さなければ生まれません。
調査員は、その家の1週間を見ていたわけではありません。同席した家族が「特に困っていません」と答えれば、それ以上の材料は出てこないのです。
3つの評価軸を知っておくと、伝えるべきことが分かります
同テキストは、調査項目を3つの評価軸に分けています。
| 評価軸 | 何で選ぶか |
|---|---|
| 能力 | 「できる」か「できない」かを、実際に試行して評価する |
| 介助の方法 | 具体的に介助が「行われている-行われていない」の軸で選択する |
| 障害や現象(行動)の有無 | その行動がどの程度発生しているかを頻度で選ぶ |
注目してほしいのは**「介助の方法」**です。これは「できるかどうか」ではなく、実際にどう介助されているかで選びます。
だからこそ、家族が毎日どんな手をかけているかが、そのまま判定の材料になります。「本人はできると言っているが、実際は自分が付き添っている」——これは伝えていい情報です。
ひとり暮らしの親は「介助なし」で軽く出るのか
ひとり暮らしの親の申請で、家族がよく心配する点です。誰も介助していないのだから、「介助されていない」と選ばれて軽く出てしまうのではないか、と。
**そう単純ではありません。**認定調査員テキスト2009改訂版には、こうあります。
「介助されていない」状態や「実際に行われている介助」が、対象者にとって「不適切」であると認定調査員が判断する場合は、その理由を特記事項に記載した上で、適切な「介助の方法」を選択し、介護認定審査会の判断を仰ぐことができる。
そして、実際に行われている介助が不適切と考える場合の例として、次のようなケースが挙げられています。
- 独居や日中独居等による介護者不在のために適切な介助が提供されていない場合
- 介護放棄、介護抵抗のために適切な介助が提供されていない場合
- 介護者の心身の状態から介助が提供できない場合
- 介護者による介助が、むしろ本人の自立を阻害しているような場合
つまり、誰もやっていないから介助なし、と機械的に処理する設計ではないということです。同テキストは、不適切な状況にあると判断された場合は、単に「できる-できない」といった個々の行為の能力のみで評価せず、生活環境や本人の置かれている状態なども含めて総合的に判断する、としています。
ただし繰り返しますが、**調査員が知らなければ判断のしようがありません。**ひとり暮らしで実際に起きていること——お風呂に何日入っていないか、冷蔵庫の中身、洗濯物、薬の残り——を、そのまま伝えてください。
高齢者の一人暮らしはいつまで可能かもあわせて参考になります。
伝えるコツは「大変です」ではなく「回数」
認定調査員テキスト2009改訂版は、特記事項の書き方について、介護認定審査会が介護の手間を評価できるよう、実際に行われている介助で選択した場合は具体的な介護の手間と頻度を記載する、としています。
裏を返すと、頻度のない訴えは、手間の大きさとして伝わりにくいということです。
| 伝わりにくい言い方 | 伝わる言い方 |
|---|---|
| 夜、よく起きます | 先週7日のうち5日、夜中に2〜3回起こされ、そのつどトイレに付き添いました |
| 物忘れがひどいです | 今月に入って3回、鍋を火にかけたまま忘れました。1回は焦がしています |
| 食事は自分で食べます | 食べますが、声をかけないと始めません。週5日は途中で止まるので隣で促しています |
| お風呂を嫌がります | 2週間で入浴は1回です。促すと怒るので、体を拭くだけの日が続いています |
| 服は自分で着ます | 着ますが、前後ろが逆のことが週3回ほどあり、そのたびに着せ直しています |
数字は、正確でなくてかまいません。「だいたい週に3回くらい」で十分です。大切なのは、手間が起きている頻度が伝わることです。
⚠️ 事実を大きく見せる必要はありません
ここははっきり書いておきます。実態より重く伝えることは、すすめられません。
要介護認定は、介護の必要量を全国一律の基準で客観的に判定する仕組みです。実態と合わない区分が出れば、そのあとに組まれるケアプランも実態に合いません。困るのは本人と家族です。
必要なのは盛ることではなく、漏らさないこと。日頃の状況を、そのまま、頻度とともに伝えてください。
調査の日までに準備しておくとよいもの
- 直近1週間のメモ(起きた出来事と回数。認知症の行動については1か月分あるとなおよい)
- 困っている場面のリスト(夜間、入浴、排泄、食事、服薬、外出、金銭管理)
- 使っている福祉用具(杖、手すり、車いす、おむつなど)
- 服薬を誰が管理しているか(飲み忘れの有無、残薬の状況)
- 受診の状況(通院に付き添いが必要か、何科にかかっているか)
概況調査には、家族状況・居住環境・日常的に使用する機器や器械を記載する欄があります。「同居しているが日中は仕事で不在」「2階にトイレがない」といった生活条件も、遠慮せず伝えてください。
本人の前で言いにくいことは、どう伝えるか
できないことを本人の前で並べられるのは、誰にとってもつらいことです。認知症のある方では、自尊心が傷つき、混乱や怒りにつながることもあります。
現実的な方法は次のとおりです。
- 事前にメモを用意し、当日そのまま調査員に渡す(読み上げなくてよい)
- 調査の途中で別室に移って伝える
- 玄関先で見送るときに補足する
- 調査日の前に、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ状況を共有しておく
- 調査後でも、市区町村の担当窓口に事実を追加で伝える
まだ担当のケアマネジャーがいない段階なら、地域包括支援センターが窓口になります。すでに担当がいる場合の相談・変更についてはケアマネジャーの選び方・変更を参考にしてください。
本人への声のかけ方そのものに困っている場合は、認知症の親への接し方が参考になります。
主治医意見書も、判定の材料です
二次判定で加味されるのは、特記事項だけではありません。主治医意見書も並びます。
市町村は、申請があったときに主治医に対して意見を求めます。ここに生活上の困りごとが反映されていないと、審査会に届く情報が薄くなります。
- 申請の前後の受診で、家で起きていることを医師に伝えておく
- 診察が短い場合は、メモを渡す
- かかりつけ医がいない場合は、申請前に受診先を確保しておく
そもそも受診自体を嫌がる場合は、親が病院に行きたがらないで、本人抜きで先に病院へ相談するという方法を紹介しています。認知症の初期に気づくポイントは認知症の初期症状にまとめています。
結果に納得できないときは
出た結果が実態と離れていると感じたときの選択肢は、大きく2つです。
- 区分変更申請——心身の状態が変わったときに、認定期間の途中でも申請できます
- 審査請求——都道府県の介護保険審査会に不服を申し立てる方法です
実務上は、区分変更申請のほうが早く動くことが多いとされています。詳しくは要介護認定の更新と区分変更の違いをご覧ください。区分ごとに何が違うのかは要介護度の区分の違い、申請の手順そのものは要介護認定の申請方法にまとめています。
**やり直しがきかない一発勝負ではありません。**この点だけでも、少し肩の力が抜けるのではないでしょうか。
認定はゴールではなく、入口です
区分が出たら、次はサービスを組む段階です。介護保険サービスの種類で、使えるものを確認してください。
そのうえで、正直に書いておきたいことがあります。
認定が出ても、在宅で埋まらない部分は残ります。
夜間に何度も起こされる生活、目を離せない時間、仕事との両立。区分が上がっても、家族が寝られる夜が戻るとはかぎりません。介護疲れ・介護うつまで来ているなら、それは体制の問題です。
在宅の限界を感じたら
認定調査で「実態を分かってもらえない」と感じるほど手をかけているなら、その手間は、すでに家族ひとりで支える量を超えているかもしれません。
施設では職員が交代で関わります。同じことを家族ができないのは、交代要員がいないからです。
施設の種類ごとの違いは老人ホームの種類に、費用の目安は介護費用の相場にまとめています。お住まいの地域で探す場合はエリアから施設を探す、状況から選ぶ場合は目的別に施設を探すが入口です。本人が嫌がるときは親が施設を嫌がるときも参考にしてください。
**いま調べておくことは、決めることとは違います。**選択肢を知っておくだけでも、次の判断は軽くなります。
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- 親が病院に行きたがらない——主治医意見書につながる受診の話
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出典・参考
- 厚生労働省「認定調査員テキスト2009改訂版(平成30年4月改訂)」(調査時の環境が日頃の環境と異なったり、調査対象者の緊張等により日頃の状況と異なっていると考えられる場合…一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づいて選択する/「介助されていない」状態や「実際に行われている介助」が、対象者にとって「不適切」であると認定調査員が判断する場合は、その理由を特記事項に記載した上で、適切な「介助の方法」を選択し、介護認定審査会の判断を仰ぐことができる/不適切と考える場合の例に独居や日中独居等による介護者不在を明記/具体的な「介護の手間」と「頻度」を、特記事項に記載する/記載する内容が選択肢の選択基準に含まれていないことであっても、介護の手間に関係する内容であれば、特記事項に記載することができる/3つの評価軸=能力・介助の方法・障害や現象(行動)の有無/行動に関する項目は調査日より概ね過去1か月間の頻度で選択):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/nintei_text.html
- 厚生労働省「認定調査員テキスト2009(改訂版)」本文PDF:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000077237.pdf
- 厚生労働省「要介護認定はどのように行われるか」(コンピュータによる一次判定は、その方の認定調査の結果を基に、約3,500人に対し行った「1分間タイムスタディ・データ」から推計します/一次判定と二次判定の二段階):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/gaiyo2.html
- 厚生労働省 老健局老人保健課「要介護認定の仕組みと手順」(介護認定審査会により、一次判定結果、主治医意見書等に基づき審査判定を行う(二次判定)/特記事項=主に基本調査では把握できない対象者の具体的、固有な状況などを審査会に伝達する役割/概況調査=家族状況、居住環境、日常的に使用する機器、器械の有無等):https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf
- 厚生労働省「要介護認定に係る法令」(要介護認定の根拠法令):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/gaiyo4.html
まとめ
- 認定調査の日だけしっかりするのは、めずらしいことではありません。その場で親を訂正する必要はありません
- 要介護認定は一次判定(コンピュータ)と二次判定(介護認定審査会)の二段階。審査会は特記事項と主治医意見書を加味して決めます
- 認定調査員テキストは、緊張等で日頃の状況と異なると考えられる場合は、概ね過去1週間のより頻回な状況に基づいて選択すると定めています。その日の一回で決まる設計ではありません
- ただし聞き取りの材料は家族が出さなければ生まれません。「特に困っていません」で終えないでください
- 「介助の方法」の項目は、できるかどうかではなく、実際にどう介助されているかで選びます。毎日かけている手間は、伝えていい情報です
- ひとり暮らしでも誰もやっていないから介助なしとは限りません。独居や日中独居による介護者不在は、不適切な介助の例として明記されています
- 伝え方のコツは「大変です」ではなく回数。特記事項には介護の手間と頻度を書くことになっています
- ⚠️ 実態より重く伝える必要はありません。合わない区分は、合わないケアプランになって本人と家族に返ってきます
- 本人の前で言いにくいことは、メモを渡す・別室で伝える・調査後に窓口へ追加で伝える
- 結果に納得できないときは区分変更申請や審査請求があります。要介護認定の更新と区分変更の違いをご覧ください
- 認定はゴールではなく入口です。在宅で埋まらない部分が残るなら、エリアから施設を探すから選択肢だけでも確認できます