病院の付き添いも、ケアマネジャーとの打ち合わせも、夜中の呼び出しも、全部自分。それなのに、たまに顔を出すきょうだいが「もっとこうしたほうがいい」と言って帰っていく。

手伝わないのに、口だけは出す。

結論からいうと、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の手続きがあります。

裁判所は「扶養請求調停」を、親やきょうだいなどの世話を誰がするかについてや、その費用の負担について話し合う手続ですと説明しています。しかも申立人には扶養義務者が含まれます。つまり介護している側から申し立てられます。費用は収入印紙1,200円と郵便切手です。

いきなりそこまでするつもりがなくても、「最後にこれがある」と知っているだけで、話し合いの持ち方は変わります。

まず、扶養義務は全員にあります

裁判所は扶養請求調停の説明の中で、直系血族及び兄弟姉妹は相互に扶養義務があるとしています。

親の扶養義務は、**同居している人だけ、長男だけが負うものではありません。**きょうだいは等しく負っています。

ただし注意してほしいのは、扶養義務=自分の手で介護すること、ではないという点です。調停でも、各扶養義務者の経済状況や生活状況、扶養権利者(親)の意向等が考慮されます。

遠方に住んでいる、仕事が動かせない、自分の家庭に事情がある——そういう場合は、手の代わりにお金や手続きで担うという分け方になります。

つまり議論すべきは「やるかやらないか」ではなく、**「どの形で担うか」**です。

責める前に、なぜ動かないのかを分けて考える

腹が立つ気持ちはいったん置いて、相手側の事情を分類してみてください。理由が違えば、打つ手も変わります。

動かない理由現実的な頼み方
遠方・仕事で時間がない手ではなく費用と手続き(役所・保険・振込)を担ってもらう
状況を知らない記録を共有する。想像しているより悪い、が伝わっていない
お金がない金額を下げて回数を決める(帰省1回、月1万円など)。ゼロにしない
配偶者の反対がある本人だけで抱えず、分担の話を文書にして持ち帰ってもらう
親との関係が悪い顔を合わせない担い方(費用・書類・連絡窓口)に振る
自分が担うと決めつけられている「できない日がある」と先に伝える。倒れてからでは遅い

**いちばん多いのは「知らない」です。**月に一度、機嫌のいい時間帯に電話しただけの人は、本当に大丈夫だと思っています。

情報の格差をなくすところから

話し合いの前に、同じ材料を全員が持っている状態を作ってください。

  • 1週間の記録(起きた出来事・回数・かかった時間)
  • かかっているお金(毎月の介護保険の自己負担、おむつ代、通院の交通費、立て替え分)
  • ケアマネジャーからの説明(可能なら担当者会議に参加してもらう、無理なら要点を共有)
  • 今後起こりうること(要介護度が上がる、夜間対応が増える、入院・退院)

記録は、責めるための材料ではなく、判断してもらうための材料です。「大変なの」ではなく、回数と金額で共有してください。この伝え方は、認定調査で実態を伝える方法と同じ考え方です。

お金の線引きは、先に決めておく

介護の費用は、まず親のお金から出すのが原則です。子が肩代わりを続けると、あとで必ずもめます。

  • 親の年金・預金でどこまで賄えるかを最初に確認する
  • 立て替えたら必ず記録(レシート、振込明細、簡単な出納メモ)
  • 親の通帳を自分の口座と混ぜない
  • 足りない分の分担割合を、金額と期間を区切って決める(「当面1年、月◯円」)

親の判断能力が落ちてきて手続きが止まる場合は、成年後見制度や家族信託が選択肢になります。費用そのものが厳しい場合は介護費用が払えないときや介護費用の負担を軽くする制度もあわせてご覧ください。

⚠️ **勝手に親のお金を動かさないでください。**善意でも、あとから使い込みを疑われる原因になります。記録がある人が強いと考えておくのが安全です。

それでもまとまらないなら——扶養請求調停

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

介護の分担は、家庭裁判所で決めてもらえます。

裁判所は「扶養請求調停」をこう説明しています。

親やきょうだいなどの世話を誰がするかについてや,その費用の負担について話し合う手続です。

そして申立てができる場面は、扶養を要する者と扶養義務者との間で話合いがまとまらない場合や話合いができない場合とされています。連絡がつかない、話し合いに応じないという状態も、ここに含まれます。

手続きの概要

項目内容
申立人扶養権利者(親)、扶養義務者(子) =介護している側からも申し立てられる
申立先相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所
費用収入印紙1,200円分(扶養権利者1人につき)+連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに異なる)
必要書類申立書、申立人と相手方の戸籍謄本、進行に関する照会回答書など
進み方調停委員が各扶養義務者の経済状況や生活状況、扶養権利者の意向等を考慮し、双方から事情を聴き、必要に応じて資料の提出を求めて合意を目指す
不成立のとき原則として自動的に審判手続が開始され、裁判官が一切の事情を考慮して判断する

**弁護士に頼まなければ使えない手続きではありません。**申立書の書式は裁判所のサイトで公開されています。

使う前に知っておきたいこと

  • **関係は、たいてい悪くなります。**それでも、限界まで一人で抱えて共倒れになるよりはましだ、という判断の手続きです
  • **すぐには決まりません。**期日を重ねるので、今日明日の介護は別に手当てが必要です
  • 「調停を考えている」と伝えた段階で話し合いが動くこともあります。目的は勝つことではなく、分担を決めることです

家族以外の手を増やすほうが早いこともあります

正直に書きます。きょうだいを動かすより、サービスを増やすほうが早い場合が多いです。

**第三者が入るだけで、話が動くことがあります。**きょうだいは、あなたの話は聞かなくても、ケアマネジャーの説明は聞くことがあります。担当者会議に呼ぶのは、そのための現実的な手です。

やってはいけないこと

  1. 限界まで黙って抱える——介護疲れ・介護うつや、親に手を上げてしまいそうになるところまで行く前に、外に出してください
  2. 親を人質にした言い方(「じゃあ全部そっちで見て」)——相手が防御に回り、話が終わります
  3. 記録を残さずに立て替え続ける——後日の話し合いでも調停でも、材料がなくなります
  4. 仕事を辞めて解決しようとする——介護離職を避けるためににも書いたとおり、いちばん戻りにくい選択です

相続のときの精算は、別の話です

「介護した分は、相続で報われるのでは」と考える方は多いのですが、いまの分担といまの費用は、いまの手続きで決めてください。

相続の場面には、相続人の貢献を反映する寄与分(民法904条の2)や、相続人以外の親族が金銭を請求できる特別寄与料(民法1050条)があります。ただし認められる条件があり、期限もあります。詳しくは介護した分は相続で報われる?寄与分・特別寄与料をご覧ください。

共通しているのは、記録が効くという点だけです。

在宅の限界を感じたら

きょうだいが動かないという状況は、手が増える見込みがないということでもあります。

在宅の介護は、担い手の数で決まります。ひとりで担う設計には限界があり、それは愛情や根性の問題ではありません。施設では職員が交代で関わります。同じことを家族ができないのは、交代要員がいないからです。

施設の種類ごとの違いは老人ホームの種類に、費用の目安は介護費用の相場にまとめています。お住まいの地域から探す場合はエリアから施設を探す、状況から選ぶ場合は目的別に施設を探すが入口です。本人が嫌がる場合は親が施設を嫌がるときも参考にしてください。

**費用の分担でもめているなら、施設の費用は先に全員で確認しておくほうが安全です。**あとから「そんな高いところに入れたのか」と言われないためでもあります。

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出典・参考

まとめ

  • 扶養義務は直系血族及び兄弟姉妹が相互に負う。長男だけ、同居している人だけの義務ではありません
  • ただし扶養義務=自分の手で介護すること、ではない。手・お金・手続きのどれで担うかを決める話です
  • 動かない理由を分けて考える。いちばん多いのは「知らない」。記録を回数と金額で共有してください
  • 介護費用はまず親のお金から。立て替えは必ず記録し、通帳を混ぜない
  • ⚠️ 勝手に親のお金を動かさない。善意でも使い込みを疑われる原因になります
  • まとまらないときは家庭裁判所の扶養請求調停。裁判所自身が「世話を誰がするか、その費用の負担について話し合う手続」と説明しています
  • 申立人には扶養義務者が含まれる=介護している側から申し立てられます。収入印紙1,200円+郵便切手、弁護士は必須ではありません
  • 不成立なら自動的に審判へ。ただし関係は悪くなりやすく、すぐには決まらないので、今日明日の介護は別に手当てが必要です
  • きょうだいを動かすよりサービスを増やすほうが早いことも多い。第三者(ケアマネ・地域包括)を入れると話が動くことがあります
  • 相続の精算(寄与分・特別寄与料)は別の話。いまの負担は、いまの手続きで決めてください
  • 手が増える見込みがないなら、エリアから施設を探すから選択肢だけでも確認しておくと、次の判断が軽くなります