最近、親がよくふらつく。転びそうになる。前より物忘れがひどい。ぼんやりしている日がある。食欲がない。

年のせいだ、あるいは認知症が進んだ——そう受け止めていませんか。

もちろんそのこともあります。ただ、それらの症状が薬の影響として現れることがある、と国の指針にはっきり書かれています。しかも見過ごされがちだ、とも。

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、こう述べています。

特に、患者の生活に変化が出たり、新たな症状が出現したりする場合には、まず薬剤が原因ではないかと疑ってみる。

⚠️ 先にお願いです。**この記事を読んで、自己判断で薬をやめさせないでください。**判断するのは医師と薬剤師です。家族の役割は、やめさせることではなく、気づいたことを正確に伝えることにあります。

「年のせい」に見える症状が、一覧になっています

厚生労働省の指針には、薬剤起因性老年症候群という表があります。薬の影響が、高齢者によくある症候として表れることを整理したものです。

主なものを抜き出すと、次のようになります。

症候主な原因薬剤として挙げられているもの
ふらつき・転倒降圧薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、てんかん治療薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬 など
記憶障害降圧薬、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬 など
せん妄パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、抗ヒスタミン薬、降圧薬、副腎皮質ステロイド など
抑うつ中枢性降圧薬、β遮断薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、副腎皮質ステロイド など
食欲低下非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下剤、抗不安薬、抗精神病薬、SSRI など
便秘睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬、抗ヒスタミン薬 など
排尿障害・尿失禁抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬、抗ヒスタミン薬、睡眠薬・抗不安薬、利尿薬 など

見ていただきたいのは、ここに並んでいるのが「介護で困っていること」そのものだという点です。転ぶ、忘れる、夜に混乱する、意欲がない、食べない、便秘、失禁。

**⚠️ ここを誤解しないでください。**この表は「これらが悪い薬だ」という意味ではありません。必要があって出ている薬です。表の趣旨は、症状が出たときに薬という可能性も検討の対象に入れるということであって、やめる理由ではありません。指針にも、この表は単剤でみられるものを記載したと注記されています。

薬が多いこと自体が問題なのではありません

「何種類から多すぎるのか」は、よく聞かれる質問です。指針の答えは明快です。

ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である。何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はなく、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化する。

数の目安がまったくないわけではありません。同じ指針は、薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加し、6種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータもあるとしています。

ただし、そのすぐあとにこう続きます。

一方、治療に6種類以上の薬剤が必要な場合もあれば、3種類で問題が起きる場合もあり、本質的にはその中身が重要である。

6種類は「危険ライン」ではなく、相談を切り出すきっかけくらいに受け取るのが正確です。

なぜ薬は増えていくのか

指針は、増えかたに2つの典型があると説明しています。ここを知っておくと、誰を頼ればいいかが見えます。

① 診療科ごとの足し算

新たな病状が加わる度に新たな医療機関又は診療科を受診していると、それぞれ2、3剤の処方でも足し算的に服用薬が積み重なり、ポリファーマシーとなることがある

内科で2剤、整形外科で2剤、眼科で1剤、皮膚科で1剤。それぞれの科は適切に処方しているのに、全体を見ている人がいないという状態です。

② 処方カスケード

新たな病状を薬剤で手当てしていくと、薬物有害事象に薬剤で対処し続ける“処方カスケード”と呼ばれる悪循環に陥る可能性がある

薬の副作用に、また薬が足されるという連鎖です。たとえば、ある薬の影響で便秘が起きて下剤が足され、その下剤で食欲が落ちて別の薬が足される、といった形です。

そして解消の方向も、指針に書かれています。

かかりつけ医による診療が開始された際に薬剤の処方状況全体を把握すること、又は薬局の一元化などで解消に向かうことが期待されている

つまりかかりつけ医を決めることと、薬局を1か所にまとめることです。家族が今日から動かせるのは、後者のほうかもしれません。

家族にしかできないことがあります

指針には、家族の情報を必要とする記述が明確にあります。

認知機能の低下は患者本人との会話から気づくのは難しいため、家族や薬剤師、看護師、介護職員などから生活状況や残薬、服薬状況を確認することが望ましい

診察室では、親はしっかり受け答えします。**家での様子は、家族しか知りません。**これは認定調査の場面とまったく同じ構図です。

伝えるときは、要望より事実のほうが医師は判断しやすくなります。

伝わりにくい言い方伝わる言い方
薬が多すぎると思います6月に睡眠薬が変わってから、夜中にトイレへ行くときにふらつくようになりました。今月は2回転んでいます
最近ぼんやりしています3週間ほど前から、昼間もうとうとして、話しかけても反応が鈍い日が週に3日ほどあります
飲み忘れがあります先週の残薬を数えたら、朝の分が5回分残っていました。夜の分は残っていません
食欲がありませんひと月で体重が3kg減りました。薬が増えた時期と重なっています

**残っている薬は、捨てずに持っていってください。**残薬は、飲めているかどうかを示す実物の証拠になります。

飲めないのは、意思の問題ではありません

「何度言っても飲まない」を、性格や意欲の問題として扱わないでください。指針は、服薬アドヒアランス低下の要因を具体的に列挙しています。

  • 服用管理能力の低下——認知機能の低下、難聴、視力低下、手指の機能障害、日常生活動作(ADL)の低下
  • 多剤服用
  • 処方の複雑さ
  • 嚥下機能障害
  • うつ状態
  • 主観的健康感が悪いこと(薬効を自覚できない等)
  • 医療リテラシーが低いこと
  • 自己判断による服薬の中止
  • 独居
  • 生活環境の悪化

手指の機能障害でシートから錠剤が出せない。視力低下で袋の字が読めない。飲み込みにくい。1日4回に分かれていて管理しきれない。どれも「飲む気がない」とは別の話です。

手を入れられる場所は、処方側にもあります

指針の「処方の工夫と服薬支援」には、こうした例が挙げられています。

  • 服用回数を減らす(作用時間の長い薬剤に変える、食前・食後・食間をできるだけまとめる)
  • 剤形を変える(ADLに合った形にする、貼付剤を使う、嚥下障害には簡易懸濁法や服薬補助ゼリー)
  • 調剤の工夫(服薬セットケースや服薬カレンダー、分包紙に日付やマークをつける)
  • 管理方法の工夫——本人管理が難しい場合は家族などの管理しやすい時間に服薬をあわせる
  • 処方・調剤の一元管理(お薬手帳の活用を含む)

⚠️ ひとつ注意があります。よく勧められる一包化について、指針はこう釘を刺しています。

一包化を行うことが必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないことに注意する。

一包化しても、飲むこと自体を忘れるなら解決しません。まず何が原因で飲めていないのかを、薬剤師と一緒に切り分けてください。

そして認知機能の低下による飲み忘れについては、指針はこうしています。

家族や看護師、介護職員などが1日分ずつ渡すなどの介助が必要である。

渡す人が要る、ということです。家族が毎日それをできないなら、そこが在宅の限界の入口になります。

薬剤師に、家まで来てもらえます

指針は、多職種の協働にも触れています。

訪問看護師と在宅訪問に対応する薬剤師の連携により、服薬状況、残薬の確認や整理、服薬支援を行うことなども、期待されている。

薬剤師が自宅を訪問して、残薬の整理や飲み方の調整をする仕組みがあります。**まずケアマネジャー、いなければ地域包括支援センターに、「服薬の管理ができていない」と伝えてください。**そこから訪問看護や訪問薬剤の話につながります。

受診そのものを嫌がる場合は、親が病院に行きたがらないで、本人抜きで先に病院へ相談する方法を紹介しています。

家族が読める資料があります

厚生労働省の指針は、医療者向けの文書です。指針自身がこう断っています。

一方、患者、家族などは利用対象としておらず、気になる点があれば医療関係者に御相談願いたい

そのうえで、国は家族側の理解も必要だとしています。

薬剤の減量や中止により病状が改善する場合があることを患者等にも理解していただく必要があり、広く国民に薬剤の適正な使用法の知識を普及させることが望まれる

家族が読めるものとしては、**日本老年医学会と日本老年薬学会等が共同で作成した一般向けパンフレット「高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用」**が公開されています。指針の中でも、活用が望まれる資料として名前が挙がっています。

症状が薬と関係しているか迷ったら

判断はできません。ただ、相談する材料は用意できます。

  1. お薬手帳をすべて集める(病院ごとに分かれていたら1冊にまとめる)
  2. 残っている薬を集めて数える
  3. 症状が出はじめた時期と、薬が変わった時期を並べて書く
  4. 薬局を1か所に決める
  5. かかりつけ医か薬剤師に、その紙を渡して相談する

「薬を減らしてください」ではなく、**「この時期からこの症状が出ています。関係はありますか」**と聞くのが、いちばん通じます。

急に混乱が始まった場合は、せん妄の可能性もあります。物忘れが気になる場合は認知症の初期症状もあわせてご覧ください。⚠️ いずれも判断は医師です。

ひとり暮らしの親の場合

指針が挙げる要因のなかに、独居があります。

薬を管理する人がいない状態は、それだけで飲めなくなる条件です。訪問薬剤や訪問看護、定期巡回サービスで埋められる範囲もありますが、毎日決まった時間に人が要るとなると、在宅では組みにくくなります。

高齢者の一人暮らしはいつまで可能かに、判断の材料をまとめています。

在宅の限界を感じたら

服薬管理は、在宅介護がいちばん最初につまずくところのひとつです。毎日、決まった時間に、間違いなく——これを家族が続けるのは、想像よりずっと重い作業です。

施設では職員が交代で行います。同じことを家族ができないのは、交代要員がいないからです。

介護疲れ・介護うつまで来ているなら、それは気持ちの問題ではなく体制の問題です。施設の種類は老人ホームの種類、費用の目安は介護費用の相場にまとめています。お住まいの地域から探すならエリアから施設を探す、状況から選ぶなら目的別に施設を探すが入口です。本人が嫌がるときは親が施設を嫌がるときも参考にしてください。

調べておくことは、決めることとは違います。

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出典・参考

  • 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月(ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である/薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加し、6種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータもある/治療に6種類以上の薬剤が必要な場合もあれば、3種類で問題が起きる場合もあり、本質的にはその中身が重要である/表1 薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤/特に、患者の生活に変化が出たり、新たな症状が出現したりする場合には、まず薬剤が原因ではないかと疑ってみる/“処方カスケード”/かかりつけ医による診療が開始された際に薬剤の処方状況全体を把握すること、又は薬局の一元化などで解消に向かうことが期待されている/表2 服薬アドヒアランス低下の要因/表3 処方の工夫と服薬支援の主な例/一包化を行うことが必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないことに注意する/認知機能の低下は患者本人との会話から気づくのは難しいため、家族や薬剤師、看護師、介護職員などから生活状況や残薬、服薬状況を確認することが望ましい/家族や看護師、介護職員などが1日分ずつ渡すなどの介助が必要である/訪問看護師と在宅訪問に対応する薬剤師の連携により、服薬状況、残薬の確認や整理、服薬支援を行うことなども、期待されている/患者、家族などは利用対象としておらず、気になる点があれば医療関係者に御相談願いたい/薬剤の減量や中止により病状が改善する場合がある):https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf
  • 厚生労働省「『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』について」の通知発出について:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208848.html
  • 厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」(指針・ポリファーマシー対策の検討経過):https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_431862.html
  • 日本老年医学会「多すぎる薬と副作用(一般向けパンフレット)」(日本老年医学会ならびに研究班作成。一般の方向けに高齢者の薬物療法の基本を解説):https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/20161117_01.html

まとめ

  • ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、抑うつ、食欲低下、便秘、尿失禁は、薬の影響として現れることがあると国の指針に一覧化されている。しかも見過ごされがちとされている
  • 指針は「患者の生活に変化が出たり、新たな症状が出現したりする場合には、まず薬剤が原因ではないかと疑ってみる」としている
  • ⚠️ ただし表に載っている薬は必要があって出ている薬。「悪い薬」の一覧ではありません
  • 数だけでは判断できない。6種類以上のデータはあるが、指針は「3種類で問題が起きる場合もあり、本質的にはその中身が重要」としている
  • 薬が増える典型は診療科ごとの足し算と処方カスケード(副作用に薬で対処し続ける悪循環)。解消はかかりつけ医と薬局の一元化
  • 家での様子は家族しか知らない。指針も、家族などから生活状況や残薬、服薬状況を確認することが望ましいとしている
  • 伝えるのは要望ではなく事実。いつから・どんな症状が・どのくらい。残薬は捨てずに持っていく
  • 飲めないのは意思の問題ではない。難聴・視力低下・手指の機能障害・処方の複雑さ・独居などが要因として挙げられている
  • ⚠️ 一包化は万能ではない。指針は「必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないことに注意する」としている
  • 薬剤師に自宅へ来てもらえる。まずケアマネジャーか地域包括支援センターへ
  • ⚠️ **自己判断で薬をやめないでください。**判断は医師と薬剤師です。家族の役割は、気づいたことを正確に伝えることです